(社会新報2月1日号1面より)
安保3文書の改定が閣議決定された昨年12月16日の夜、社民党は福島みずほ党首、新垣邦男副党首、山城博治党常任幹事の3人によるオンライン討論「安保3文書は問題だ」を開いた。
◇
安保3文書の改定では、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有と、それに伴い防衛予算を2023年度から5年間で計43兆円とし、現行計画の1・5倍以上とし、27年度に防衛予算を倍増することなどが明らかにされた。その閣議決定は、臨時国会閉会後に行なわれ、国会審議は皆無だった。
新垣副党首は「国の針路に関わる重要事項を国会で議論せずに内閣だけで決め、国民に知らせない。費用の根拠やその内容もあいまいだ。米国の言いなりになっているだけで、与党内でも議論がないのではないか。戦前の過ちを繰り返すとんでもない政権だ」と厳しく批判した。山城さんも「結論だけを突きつけられた。国民の意思はどこにもない」と憤った。
福島党首は、今回の安保3文書改定を、集団的自衛権の行使を容認した2015年の安保法制に続く「専守防衛を貫いてきた日本の安全保障政策の大転換」だと厳しく批判した上で、「他国を攻撃できるようにすることは、同時に日本も攻撃対象になるということ。戦禍に巻き込まれる可能性を急激に増大させる」と強調。
台湾有事は米代理戦
沖縄で米軍と自衛隊の関係をつぶさに見てきた山城さんは、驚くべき実態を明らかにする。
「台湾有事で米軍が交戦した場合、台湾のほかに日本やフィリピンの軍が出動し、入れ替わりに米軍は後退する戦略を採ることが伝えられている。いま沖縄の島々で自衛隊が広く展開され、米国から武器を大量に買い、滑走路や弾薬庫も強化される。これは攻撃も防衛も日本自ら行なうための準備ということだろう。それは今ウクライナで起きている米国の代理戦争が、まさにここ東アジアで起きるということだ」
「沖縄では、支障がなければ空港の軍事利用を認めるというが、爆弾一つ落ちれば機能は停止してしまう。また国民保護をするためと、シェルターが検討されているが、自衛隊と武器強化が進めば進むほど島が焦土と化す可能性が高くなる。正気とは思えない」
戦争回避する外交を
新垣副党首も怒りの声を上げて次のように訴えた。
「米国が始めた戦争なのに、米軍はあっけなく撤退するという。これが集団的自衛権の実態か。国民と自衛隊はどうなるのか。首相は上から『自分の国は自分で守る』などと『国民の決意』を求めるのに、最も必要である戦争を防ぐための議論をしない」
米国バイデン政権の戦略について、山城さんは、「近い将来、中国が米国の経済力を超えるといわれる。覇権を失うことを恐れる米国が、中国にブレーキをかけたい一心で、台湾と日本、フィリピンを巻き込んで中国の疲弊を狙っている」と指摘。その上で、これに同調して社会保障や教育を削ってまで武器を購入し続ければ、日本が先に疲弊するだろうと述べた。また、情勢によっては、沖縄が戦場になることを「やむをえない」と国民が納得してしまう構図が見えてきたとし、「これが国のあり方か」と語気を強めた。
福島党首は、「全国が等しく攻撃対象となり、その脅威にさらされることを忘れてはいけない」と強調。新垣副党首も「南西諸島の強調は政府の印象操作であり、米国の感覚では南西諸島も日本もだいたい同じ。国民全体で危機を共有することが必要」と述べた。
テレビなどでは、43兆円の防衛費そのものの是非を問うことなく、防衛費の財源の捻出に焦点が当てられている。福島党首は「自民党の出来レースになっている」と厳しく批判。新垣副党首も「防衛費増強の可否やその運用がまったくあいまいで、何も考えていない。これは政治の劣化だ。43兆円捻出する覚悟があるのなら、それを教育や介護、医療などに使うべきだ」と訴えた。
まるで「奴隷国家」だ
さらに山城さんは、「増税論議はすでに窮している。結局、所得税や消費税など、国民の懐に手を突っ込むことになり、経済の悪循環が加速するだろう。何の議論もしていない閣議決定を土産に2プラス2と日米首脳会談で大軍拡を約束する。これではまるで奴隷国家だ」と警鐘を鳴らした。
通常国会では防衛費増をはじめとする60本超の法案が審議される。
最後に福島党首は、「対話による『平和への準備』こそ重要であり、閣議決定の内容を実質的に無効にしていくことが必要だ」と述べ、山城さんは「国民の犠牲を強いる無謀な軍事政策を止めなくてはいけない」とし、新垣さんも「この危機に行動を起こさなくてはならない。しっかり国民に訴えていく」と決意を語った。(文責は編集部)
【安保3文書】外交・防衛の基本指針を示す「国家安全保障戦略」と、およそ10年間に「防衛目標」を実現するための方法と手段を示す「国家防衛戦略」、さらに防衛費総額と装備品の整備規模を定めた「防衛力整備計画」の3文書を指す。今回の改定では、中国や北朝鮮の軍事的な動きを理由に、①敵ミサイルなどへの反撃能力の保有②2023年度から5年間の防衛予算を43兆円とし、現行計画の1・5倍以上に増やし、27年度に対GDP(国内総生産)比2%へ倍増すること③宇宙やサイバー空間などでの防衛力強化④戦略物資の供給網構築 などが示された。
社会新報ご購読のお申し込みはこちら