(社会新報6月13日号1面より)
憲法が保障する地方自治の基本原則を根底から覆す地方自治法改正案が5月30日、衆院本会議で与党と日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決され、参院に送られた。採決強行の暴挙を厳しく批判する。
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地方自治体は政府の家来でもなければ下請け機関でもない。
日本国憲法第92条は、「地方自治の本旨」を明記し、地域住民が地方政治に参画して地域のことを自ら決定する「住民自治」と、地方自治体の自律権である「団体自治」を保障している。また2000年施行の地方分権一括法では政府と地方自治体の関係は「対等」と位置付けられている。
ところが、地方自治法改正案は「地方自治の本旨」を覆す内容だ。
同法案は、「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」に、閣議決定によって、住民の生命・財産を守るために「必要がある」とすれば、自治体に指示を出し義務を課すという内容である。
第1の問題点は、「補充的な指示」の立法事実がないことだ。国が例示する防疫・防災などは全て現行法で対応が可能である。
第2に、現行法では、国の指示権は災害対策基本法などの個別法に規定がある場合のみ、国は地方自治体に指示できるが、改正案では非常事態時には個別法に基づかずに国が指示でき、指示権が事実上無制限になりかねないことである。指示権の強化は、自治体が指示待ちとなり、対応が遅れかねない。
第3に、改正案が地方分権の理念に逆行することだ。2000年の地方分権一括法で、国と地方は「対等・協力」の関係になった。それが「上下・主従」に逆戻りし始める危険性があること。機関委任事務を廃止し国の関与を制限した地方分権改革の原則に逆行する。
第4に、歯止めがかかるのかという問題だ。法案には事前に自治体の意見を聴く手続きが盛り込まれたが、努力義務にすぎず、実効性が担保されていない。「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」に災害や感染症を例示しているが、「その他」「これらに類する」など「事態」の範囲は不明確だ。「おそれがある」などの判断は全て政府に一任され、恣意(しい)的運用になりかねず、指示権が歯止めなく拡大する危険性があることだ。
法案の真の狙いは何なのか。それは沖縄県民の意思を無視して辺野古新基地建設が強行されたように、住民の意思を顧みずに地方自治体を「戦争する国」づくりへと強引に隷従させることではないのか。
5月23日、参院議員会館で同改正案の廃案を求める緊急集会が開かれ、200人が参加した。ローカルイニシアティブネットワーク(LIN―Net)など4団体が主催した。
指示待ちで思考停止
東京・杉並区の岸本聡子区長が出席し、「コロナ流行の初期、私は海外在住だったが、日本政府がPCR検査の拡充をためらったことに驚いた。一方で、国の要請がなくても独自に検査拡充に乗り出した自治体もあった。正しい答えを見つけるために自治体も一生懸命模索した。自治体は国の指示がなくても動く。むしろ、法改正で自治体が指示待ちの『思考停止』に陥る危険性がある」と指摘した。
国への「白紙委任法」
東京・世田谷区の保坂展人区長も出席し、コロナ禍の流行初期にPCR検査の受診条件を「37・5度以上の熱が4日以上」とか「PCR検査を拡大すると医療が崩壊する」などとした国の対応について、「明らかな間違いだった。国がいつも正しいわけではない」と強調した。
その上で、保坂区長は「災害対策基本法や新型インフル特措法以外の、国の関与が書かれてない分野で、すべて大風呂敷で受け止める、とんでもない法制だ」と指摘し、「自治体の国への白紙委任法」と厳しく批判した。
社民党の福島みずほ党首も駆けつけ、「この法改悪は憲法が規定する地方自治の本旨を破壊するものであり、自民党改憲案の緊急事態条項を先取りするものだ」と警鐘を鳴らした。