(社会新報2021年9月29日号3面《主張》より)
9月17日に、自民党総裁選が告示された。29日の投開票に向けて、河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子の4人が総裁の座を争っている。メディアからは連日、自民党の党内状況が垂れ流され、世間の注目を集める。野党不在の政治報道は苦々しい限りだが、不人気な菅義偉首相の首をすげ替えてイメージチェンジをはかり、総選挙を有利に進めるという作戦は一定の効果を生みそうだ。政権党のしたたかな戦術に驚かされる。
自民党のリーダーが誰になるかは他党の問題だが、総裁が自動的に首相となることを踏まえれば、高みの見物では済まされない。新総裁=新首相がどのような姿勢でどのような政策を打ち出すのか、きびしく注目していきたい。
その際、新首相に求められるものは、何より「立憲主義」を理解し、憲法に基づいて誠実に職務を遂行する姿勢だろう。首相は強大な権力を持つが、その権力は白紙委任されたものではない。憲法の枠内で憲法によって委任された権力であり、好むと好まないとにかかわらず、憲法を順守しなくてはならない。新しい自民党総裁=首相には、何よりこの大原則を十分に理解してもらう必要がある。
誰が首相になっても、「立憲主義」は全ての大原則だ。憲法の下で憲法に基づいて与えられた権力を、自分の勝手に使い、憲法を軽視し、あわよくば都合よく変えてしまおうとする。少なくとも、そんな首相だけはゴメンである。
自民党総裁選告示の2日後の9月19日、国会正門前には多くの市民が集まった。総がかり行動実行委員会などが呼びかけたもので、安倍政権による安保法制(戦争法)の強行成立から6年目の行動だ。
福島党首をはじめ、立憲野党各党の代表や安保法制に反対してきた市民が、次々と声を上げた。
第2次安倍政権(12年~)ごろから、憲法解釈の強引な変更や、露骨な憲法軽視が目立つようになり、「立憲主義を守れ」という声が高まった。とくに2015年の安保法制強行に反対する運動をきっかけに、各地で200を超える「市民連合」が結成され、今や野党間の政策合意の仲立ちを進めるプラットフォームとして機能している。市民連合の呼びかけに応え、野党の共闘も進み、憲法軽視の政治を変える機会である総選挙も迫っている。自民党の総裁選挙に見とれている場合ではない。