厚生労働省の発表によると、今年1月から6月までの半年間で、新型コロナウイルス感染が報告された人のうち、自宅で死亡した人は84人に上る。今冬の第6波に備え、この問題への対処が喫緊の課題になっている。
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経済協力開発機構(OECD)によると、日本の人口1000人当たりの病床数は13床。これは米国の2・9床、英国の2・5床などに比べ圧倒的に多いが、それにもかかわらずコロナ患者の入院ベッド数は大幅に不足している。
コロナは2類に相当
理由の大きな理由は、日本の感染症法の立て付けにあるとされる。感染症法は、致死率の高いエボラ出血熱などを筆頭に、感染症を5つに分類している。新型コロナは、感染症法上、エボラ出血熱に次ぐ危険な2類相当の指定感染症(正確には新型インフルエンザ等感染症)に分類されている。
指定感染症は、現代医学で対応できない病気を「隔離」という公衆衛生の仕組みで封じ込める手法。患者隔離による感染拡大防止を最優先の任務とする保健所が封じ込めを担当する。感染防止上、患者の受け入れは感染対策と医療設備を整えた大病院に限定されてきた。
だが爆発的な感染拡大によって病床不足が露呈。受け入れ先のない患者はホテルや自宅に「隔離」されただけで、治療も受けられずに放置された。こうして大量の“コロナ難民”が生まれた。
昨年来、発熱外来やPCR検査を精力的に続けている都内の医療機関の院長は「政府の最大の過ちは、隔離を至上命題として保健所がすべてを取り仕切る態勢をつくり、いまだにそれを改めないこと。その結果、医療は後方に追いやられ、早期に治療しておけば治った患者が重症化して入院を余儀なくされたり、亡くなってしまった」と政府の無策を批判する。
「医療の原則は早期発見、早期治療による重症化防止。ところが政府の新型コロナ対策には早期治療という当たり前の発想がスッポリ抜け落ちているのです」(前出・院長)。
「隔離」手法の限界性
どういうことか。感染症法では、掛かりつけの診療所などでPCR検査を受け、陽性が確認されると、医師は全件を保健所に連絡する義務があり、その後はすべて保健所が取り仕切り、診療所や中小病院の掛かりつけ医は、一切関われない仕組みになっているのだ。
「医療の基本は“入り口”である診療所や中小病院の掛かり付け医が診察、治療して重症化を防ぎ、重症化しそうな患者を大病院に紹介すること。ところがコロナでは掛かりつけ医は保健所への通報でお役御免。以後、患者の管理は保健所に移り、患者の管理と入院調整も保健所が行なう。だが保健所は医療機関ではなく、保健所員が患者を治療することはない。結局、多くの患者が治療もされずに放置される。こんなことをやっているのは世界中で日本だけです」(前出の院長)
司令塔が目詰まりに
大阪府の医療機関の理事長もこう話す。
「感染症法上の“保健所縛り”によって、医療の入り口である掛かりつけ医がコロナ患者治療から排除された。私が保健所に届け出た患者さんについて“入院できたのか。どこでどんな治療を受けているのか”と聞いても、保健所は何も教えない。それだけならまだしも、私が処方した薬について、医師資格のない保健所員が“その薬は飲まないように”と患者に指示する異常な事態まで起きている」
保健所縛りの最大の弊害は、今回のように、司令塔の保健所が超多忙で目詰まりを起こすと、自宅などの療養者が治療されずに放置されてしまうことだ。
先の理事長は「昨年のコロナ初発時はコロナがどんな病気なのか不明だったが、いまでは陽性者の8割は軽症か無症状と分かっている。しかも医療者はワクチン接種を終えて防戦態勢を整えた上、抗体カクテル療法治療薬などの各種の武器も得ている」と前置きして、こう語る。
「コロナは早期発見、早期治療により重症化を防ぎ、かなりコントロールできる病気であることが明らかになっている。第6波に備え、軽症者を治療できるオールジャパンの医療態勢を整える必要がある」
その方法として、以前から医療界や政官界の一部では「新型コロナを隔離入院が必要な2類指定から外し5類のインフルエンザと同じ扱いにしてはどうか」という議論も行なわれてきた。
「ただ、その際、重要なのは決してコロナを軽視せず、発熱患者と、そうでない患者を別々に診察する仕組みをつくり、医療機関の感染防止態勢を徹底することです」(前出院長)
国民の命を守るためと称して、コロナ陽性者を隔離し、治療もせずに死なせる本末転倒の事態は絶対に防がねばならない。
1類感染症指定のエボラ出血熱の死亡率は約50%、3類感染症指定のMARS(中東呼吸器症候群)とSARS(重症急性呼吸器症候群)の死亡率はそれぞれ約35%と約11%。MARSよりも危険な2類相当に分類されている新型コロナの日本人の死亡率は約1%。また新型コロナの発熱外来を設けている診療所、中小病院の名前と連絡先を自治体のホームページで全て公表しているのは都道府県では埼玉県と高知県だけ。原因は、医療機関側が風評被害を恐れているためとされる。