社会新報

捏造と中傷のDappi-疑惑の徹底解明を 自民がSNSで世論誘導- 「フェイク情報は政権の大問題」-東京新聞記者の望月衣塑子さんがコメント

(社会新報2021年12月1日号1面より)

 

ツイッターのアカウント「Dappi」は、政権を批判する野党議員やマスメディアに対し、誹謗(ひぼう)中傷と捏造(ねつぞう)の投稿を繰り返してきた。そのツイートを組織的に発信していた企業が自民党本部事務総長と親密な関係にあり、同党東京都支部連合会などから多額の政治資金を受け取っていた事実が浮上。自民党によるSNSを用いた世論誘導の疑惑は深まるばかりだ。国会での徹底解明が求められる。

Dappiは2019年6月に開設され、現在、フォロワーは約17万7000人。自己紹介欄には「日本が大好きです。偏向報道をするマスコミは嫌いです。国会中継を見てます」と記している。2年数ヵ月で5135件のツイートを発し、野党とメディアを攻撃し、与党を礼賛してきた。

社民党にも悪質中傷

社民党に対しても誹謗中傷が繰り返された。19年11月4日には、衆院憲法審査会の性急な始動を「民意に反している」とけん制した社民党の照屋寛徳衆院議員(当時)を名指しで批判し、「国民世論を捻じ曲げてまでサボろうとする野党はタチ悪い」などとおとしめている。マスメディアから追及されて以降、10月1日を最後にツイートは休止中だ。

今回、疑惑解明の突破口となったのは、20年10月25日のツイート。作家の門田隆将氏の産経新聞コラムを引用する形で、財務省の公文書改ざんをめぐる問題に関して「近財職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間吊(つ)るしあげた翌日に自殺」と書いたことだった。ところが、コラムにはそうは書かれていなかった。文を切り貼りし、事実を捏造したのだ。

このツイートに対して、小西、杉尾両参院議員は、自殺した財務省近畿財務局の職員に説明を求めたり面会したりした事実はなく、ツイートによって名誉を毀損(きそん)されたとして、投稿者の開示を求める手続きを始めた。両議員はまずツイッター社を相手取り、投稿の際に使われたネット回線のプロバイダーを開示するよう求める仮処分を昨年12月に東京地裁に申し立て、今年1月に仮処分が認められた。3月にはプロバイダーを相手取り、発信者情報の開示を求め提訴。東京地裁は9月、プロバイダーに発信者の情報を両議員に開示するよう命じる判決を言い渡した。

開示された発信者はW社であることが判明。両議員はW社を相手取り、損害賠償などの訴訟を起こした。

W社は、01年の設立で、民間信用調査会社によれば従業員15人、昨年の売上高は2億1000万円で、業務内容はウェブサイトの企画、制作など。取引先は自民党や大手出版社となっている。

「自由民主党東京都支部連合会」の政治資金収支報告書によると、W社への支出は2020年8月31日にテープ起こし代として66万8933円など、13年から20年までに合計803万円余りに上る。

また、自民党の組織運動本部長である小渕優子衆院議員の資金管理団体「未来産業研究会」は、19年10月7日付でウェブサイト作成費として約83万1600円をW社に支出するなど、09年から19年までのW社への支出は378万円余り。自民党都支部連合会と小渕議員の資金管理団体からW社への支出は、判明しただけでも合計1181万円余りに上っている。

さらに、W社のA社長が自民党本部の元宿仁事務総長の親族であることが報道で明らかになった。元宿氏は1945年、群馬県生まれで、現在76歳。自民党本部職員で2000年に事務方トップの事務局長に就任、06年には定年延長の上、新設の事務総長に就いた。

自民事務総長と親密

元宿氏は民主党に政権を奪われた後の10年7月に身を引くが、12年に安倍晋三氏が自民党総裁に返り咲いて政権を奪還すると、安倍氏の強い要請で事務総長に呼び戻され、現在に至る。

04年の日本歯科医師連盟の闇献金事件では、元宿氏が闇献金の橋渡し役を担っていたことが裁判で発覚している。元宿氏は自民党の金庫番の役割を担い、裏の仕事を仕切る、“陰の幹事長”と異名を取るほどの存在だ。

自民党本部事務総長と親密な企業に野党やマスメディアへの誹謗中傷ツイートをやらせ、世論を誘導していたとなれば、民主主義を阻害する深刻な事態だ。

 

 

↑Dappiのツイッターアカウント。

 

 

 

フェイク情報は政権の大問題-東京新聞記者の望月衣塑子さん-

 

東京新聞の望月衣塑子記者がDappi問題で本紙にコメントした。

 

「自民党は2019年の参院選を前に、全所属議員に対し『フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識』というフェイク冊子を配布した。野党代表を動物に見立てたり、よだれを垂らしたりする似顔絵が掲載された内容について、党内からも『非常識』と批判の声も上がった。発行元『テラスプレス』には冊子の代金として党費が支出されたはずだが、運営主体は不明で、自民党との関係は不明のままだ。

 Dappi問題はこの冊子騒動と地続きの問題だ。フェイクニュースや誹謗中傷を流して特定政党やメディアを攻撃し、世論を誘導することは倫理的・道徳的に許されるものではない。だが、Dappiのような匿名のツイッターアカウントは他にもあるだろう。彼らに自民党や政府から資金が流れ、指示が出ていたとなれば、政権にとって大きな問題となる」

 

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