社会新報

立憲デモクラシーの会が 「安保3文書」を徹底批判

↑左から中野晃一、石川健治、山口二郎、長谷部恭男、西谷修の各氏(昨年12月23日、衆院第二議員会館)。

 

(社会新報1月25日号3面)

 

 立憲デモクラシーの会は昨年12月23日、岸田内閣が同月16日に閣議決定した「安全保障関連3文書」に対して声明を出し、衆院第二議員会館で記者会見を行なった。
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 「3文書」は、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているとし、防衛力・抑止力を強化する必要があるとした。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有も明記し、2023年度から5年間の防衛費を現行計画の1・5倍以上に増額させるとした。
 これに伴い政府は、2014年7月の閣議決定に基づき、「武力行使の3要件」を満たせば「集団的自衛権の一部行使」もできるとしている。

米国頼みの同盟抑止

 声明ではまず、「一般に抑止という戦略は相手国の認識に依存するので、通常兵力の増強が相手国に攻撃を断念させる保証はなく、逆にさらなる軍拡競争をもたらして、安全保障上のリスクを高めることもありうる」と指摘した。
 続けて、「『先制攻撃』と自衛のための『反撃』の区分はきわめて不明確であり、敵基地攻撃能力の保有は専守防衛という従来の日本の防衛政策の基本理念を否定する」と批判した。
 会見に参加した長谷部恭男さん(早稲田大学・憲法学)は、次のように語った。
 「日本では、(憲法の規定により)武力行使はゼロがベースラインだ。それにもかかわらず、戦力を持ち、武力行使をするならば、具体的にそれを正当化する合理性と必要性を説明しなければならない。だが、今回の『3文書』にはそれがない」
 中野晃一さん(上智大学・政治学)は、次のように指摘した。
 「日本は、米国のインテリジェンス(情報)に大きく依拠する形でしか自国のミサイルを使用できない。あくまで、米国の指揮下に自衛隊が入る中で、日本の安全保障が決められていく。米国が選ぶ戦争を米国の指揮下で日本が戦うことになる」
 石川健治さん(東京大学・憲法学)は、「(当事国や諸勢力による)プロパガンダに安易にコミットするのではなく、言論は可能な限り局外中立を保つ努力をすべきだ。これが、戦前からの反省に立った言論のあり方だ」と訴えた。

防衛費増ありきの愚

 声明は、「3文書」で打ち出された防衛費大幅増の方針に対しても、「必要な防衛装備品を吟味したうえでの積み上げではなく、GDP比2%という結論に合わせた空虚なもの」と批判した。
 この点について、長谷部さんは、以下のように指摘した。
 「本来、具体的にどのような状況が想定され、それに対処するために何が必要か、そのコストをつぎ込んでどれだけのメリットがあるかを、まず考える必要があるはずだ。論理が全く逆立ちしている。かつて戦艦大和を造った二の舞になりはしないか心配だ」
 山口二郎さん(法政大学・政治学)は、「岸田首相は事実上、復興特別所得税を一部防衛費に転用するとした。(東日本)大震災を経て、いかにして国民を守るかという問題意識がないままに、防衛費を増やすという。怒髪天を衝(つ)く思いだ」と訴えた。

国民不在の政策転換

 声明は、「3文書」の閣議決定に至る手法についても、「7月の参議院選挙で(略)国民の審判を受けることができたはず」「秋の臨時国会でも国会と国民に対する説明をせず、内閣と与党だけで重大な政策転換を行った」と批判した。
 西谷修さん(東京外国語大学・思想史)は、次のように語った。
 「2014年7月、集団的自衛権の(一部)行使容認が閣議決定された。立憲政治の堤防が決壊した、ということだ。その後も、菅政権と岸田政権で、決壊した状況をそのまま利用する形で政策が進められてきた。そして今回。濁流が社会に流れ込んでいる状況だ。日本の憲法が、まさに『ない』ものとして、政治が行なわれている」
 中野さんは、「『自由主義と民主主義を守る』と言うなら、民主主義的な手続きにのっとるべきだ。それなのに、裏口からなし崩し的に転換を行なっている」と批判した。
 石川さんは、以下のように訴えた。
 「2014年7月の閣議決定は、憲法が用意している『論理的な一番外側の枠』を壊してしまった。それ以降ずっと、『手続き』がまともに踏まれないで議論が進んでいる。今回の『3文書』でも、手続き的な担保がないままにシグナルだけがどんどん進行し、後付けで法制度や財源が整備されていく。安倍政権と何ら変わらない」

 

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