社会新報

「底が抜けた社会」どう変える-コロナ禍の貧困と雇用を考える社民党集会-

(社会新報2021年6月16日号1面より)

 

6月3日、参院議員会館で社民党「雇用・格差貧困対策プロジェクトチーム」のオンラインシンポジウム「底が抜けた社会の現実~コロナ禍の貧困と雇用破壊」が開かれた。全国一般三多摩労働組合書記長の朝倉れい子さんと反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作さんが語り合った。

大椿ゆうこ社民党副党首 コロナ禍の中、「底が抜けた社会」。その実態を、雇用・労働と困窮者支援の現場から、朝倉れい子さんと瀬戸大作さんに報告していただきます。

 

財界要求の階層分化

朝倉れい子・全国一般三多摩労働組合書記長 労働者の貧困は、コロナ禍で始まったことではない。背景は、2000年代に顕著となった労働者の階層分化だ。大企業の基幹社員をトップに、一般の正社員、限定正社員、無期転換社員と続き、階層の底辺には膨大な非正規労働者がいる。音頭を取ったのが経産省や厚労省。労働者を分断支配することで安い労働力を確保したいという財界要求の具体化だ。

労働者間の格差は差別の土壌となり、職場では理不尽な行為、ハラスメントが横行。働く人たちは疲れ切っている。

こんな社会は必ず壊れる。どう変えるか。まずは最低賃金を全国一律1500円にする。東京都の最低賃金は時給1013円。1日8時間、週40時間、月173時間働いて17万5249円だ。年収だと210万2988円。日々の暮らしでギリギリ、蓄えに回す余裕はない。失業や労働時間減少が生活破たんに直結する。最賃1500円なら、同じ基準の月収は25万9500円、年収311万4000円。まだまだ低いが、とりあえずそこを目指す。

 

全国最賃1500円

最低賃金が上がると中小零細企業はやっていけない、という議論がある。だとしたら、根本的な原因は大企業による中小零細への圧迫だ。例えばフランチャイズ方式。私たちの組合に加入しているフランチャイズのクリーニング店の女性オーナーは、1年間で休みは元日だけ。人を雇う余裕がないから1日10時間働きっ放しで、時給は200円~300円がやっとだ。

建設関係に多い多重下請も問題だ。ピンハネに次ぐピンハネで、末端の受注額は最賃以下が前提。公契約条例の推進と併せ、多重下請の禁止も政策的な課題だ。大企業への規制強化と一体で最賃1500円を実現できれば、賃金全体へのボトムアップ効果が生まれる。逆に、このままでは「底が抜けた社会」は本当に収拾不能となる。

 

「助けて」と言えない

瀬戸大作・反貧困ネットワーク事務局長 現場の実感で話をしたい。新型コロナ感染拡大から1年余り、相談の中身は深刻化する一方で、「死にたい」というメールを受けては駆けつける日々だ。つい先日も、夜11時ごろに女性から連絡が来た。都内の公園のトイレでうずくまり、「死ぬ前にメールを送った」という。

何でこんなにも、「助けて」と言えない社会になったのか。僕らの相談のやりとりは主にメール。相談者の多くは料金未払いで携帯が使えない。でもWi-Fiスポットなら、機械さえあればつながる。所持金が底をつき、その最後の通信ラインでメールが送られてくる。

そこまで追い詰められないと助けを求めてはいけないのか。孤立した人間に死ぬまで自助・自己責任で耐えろ、ということなのか。

SOSを受け止めるべきセーフティーネットも機能不全だ。困窮者に寄り添うはずの福祉の側が、社会のひずみの犠牲になって苦しむ人間を上から目線で評価し、選別している。

 

現場から吸い上げて

困窮者支援では、住まいの確保がとても重要だ。住み込みで働く非正規・派遣の場合、雇い止めで即座に寮を追い出され、住まいを失う。やむなくネットカフェや脱法ハウス(メモ)でしのぐが、最後は野宿だ。アパート暮らしで家賃が払えなくなっても、たどる道は同じ。生活保護を使えば、東京なら、家賃に加えてアパートを借りるための初期費用27万9000円も保障される。僕たちは、これをしっかり活用するし、受け皿として公営住宅の利用を拡充するよう提案した。

もちろん、アパート入居だけでは解決にならない。孤立している仲間が共に働ける場をつくりたいという思いから、反貧困ネットとワーカーズコープ協働で「しごと探し・しごとづくり相談会」を開いている。

それにしても、今の困窮者支援は完全に政府不在。小池都知事も、足元の都庁前にあふれる野宿者をみようともしない。「答えは現場にある」のだ。社民党の皆さん、ぜひ困窮者支援の現場に来て、痛んでいる人の生きる希望を、政治の目標として吸い上げてほしい。

(文責・編集部)

 

脱法ハウス

建築基準法や消防法の規制を逃れるため、賃貸住宅の届出をしないまま、マンションの一室などを細かく仕切って多人数を居住させる業態。瀬戸さんが紹介した事例では、分譲マンションの一室を6部屋に改造、ダミー会社の社員寮というふれこみで初期費用ゼロのシェアハウスとして賃貸していた。入居にあたってはダミー会社と社員契約を結び、マンション管理人や住人とは一切接触しない、インターホーンが鳴っても対応しない旨、約束させられる。

 

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