社会新報

【主張】「表現の不自由展」を国立市で開催 ~憲法21条を具現化した取り組みを称賛する~

(社会新報2022年4月13日号3面【主張】より)

 

 表現や言論が沈黙を強いられてはならない。

 抗議を受けて開催が延期していた「表現の不自由展東京2022」が4月2日から5日まで、東京・国立市のくにたち市民芸術小ホールで開催され、約1600人が観覧した。

 会場周辺には右翼団体の街宣車約20台が大音量で罵詈(ばり)雑言をまき散らし、妨害行動を展開した。警視庁立川署の警官数十人が警備する物々しい光景。市民らでつくる「芸術展開催を実現する会」と弁護団が実行委員会をしっかりとサポートし、大きな混乱もなく、無事に閉幕した。

 実行委の岡本有佳共同代表は会見で「開幕できて本当にうれしい」と顔をほころばせた。昨年6月の都内開催延期から10ヵ月ぶりの開催となり、感慨もひとしおの表情だった。その間の打ち合わせ会合は120回を超えた。岩崎貞明共同代表も「見る機会を奪われた作品を、見たい人に見せる場をつくることができた」と安どした。

 2019年に名古屋市で開かれた「あいちトリエンナーレ」での企画展で一時展示が中止された作品を中心に、美術展で展示を拒否されたりした作品などを集めた。今回の展示場には、戦時性暴力をなくすシンボルともいえる『平和の少女像』(キム・ソギョン、キム・ウンソン)や「昭和天皇」をコラージュした『遠近を抱えて』(大浦信行)、旧日本軍による朝鮮人「慰安婦」被害者を撮った『重重』(安世鴻)など16組の作品群が異彩を放った。

 表現の不自由展は昨年、名古屋市や大阪市でも企画され、名古屋展は「爆竹破裂」を理由に会期途中で中止に。大阪展は会場の使用許可が取り消されたが、司法判断で開催となった。

 国立市(永見理夫市長)は開幕前日の1日に市のHPに、「施設利用については、内容によりその適否を判断したり、不当な差別的取り扱いがあってはなりません。これは、アームズ・レングス・ルール(誰に対しても同じ腕の長さの距離を置く)と、同じ考え方です」との見解を公表。あらゆる差別を許さない人権条例を持つ同市にふさわしい姿勢であり、高く評価したい。

 18世紀のフランスの哲学者ヴォルテールは「私はあなたの意見には反対だ。だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」との言葉を残した。

 表現と言論の自由は民主主義の根幹をなす。今回の展覧会は憲法21条の「表現の自由」を具現化したものであり、称賛したい。

 

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