社会新報

五輪の深い闇 徹底解明を~「高橋」個人の犯罪で終わらせない

 

(社会新報1月11日号1面より)

 

 「政官財」が絡む重要案件に切り込む東京地検特捜部が、2022年に最も力を入れて取り組んだのは「五輪事件」だった。
 五輪、世界陸上、ワールドカップなど、世界的スポーツイベントにおいて最も有名な日本人である電通元専務で東京五輪・パラリンピック組織委員会元理事の高橋治之被告が、大会スポンサーのAOKIホールディングスから賄賂を受け取っていた疑いで、7月末に電通や高橋被告の自宅兼事務所などを家宅捜索した。後は怒濤(どとう)の捜査が続く。

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 高橋被告の逮捕は4回に及び、AOKIルートを含め、捜査は出版のKADOKAWA、広告代理店の大広とADKホールディングス、ぬいぐるみ製造・販売のサン・アローなど5ルートに及び、青木拡憲AOKI会長、角川歴彦KADOKAWA会長、植野伸一ADK社長などの著名企業人を連続逮捕した。
 スポンサー企業からの贈収賄事件を「横」に延ばしたのは、否認を貫く高橋被告に証拠を突きつけ、自白を求める意図があった。また「縦」の命令系統を探ることで森喜朗組織委元会長、竹田恒和組織委元副会長(日本オリンピック委員会前会長)といった組織委中枢の罪に迫りたかった。
 事実、スポンサー選定作業については高橋被告が森元会長から一任を受けていたことが、12月22日のAOKIルート初公判で明かされた。その森元会長を高橋被告から紹介された青木被告は、「お見舞い金」の名目で200万円を渡していた。また大会マスコットの「ミライトハ」「ソメイティ」を製造したサン・アロー代表は、竹田氏の70年慶大卒の同期。67年慶大卒で2人の先輩に当たる高橋被告は、サン・アローから受領した800万円を「カズ(年下の竹田氏を高橋被告はこう呼んでいたという)の慰労会のため」と、その目的を明かしていたという。
 森、竹田の両氏に職務権限があることを考えれば、贈収賄(共犯)を疑うことができる。だが、森氏は高額の肺がん治療を受けており、200万円が「お見舞い」で通った。また竹田氏の800万円は、授受に関する証言はいくつかあったものの、竹田氏に渡ったことを示す証拠がなかった。

内偵捜査は22年春から開始

 捜査着手は22年7月だったが、特捜部の内偵捜査は22年の春先から始まっていた。最初は、五輪認証事業を認められたフィットネスのRIZAPから400万円以上の便宜供与を受けていた平田竹男・内閣官房オリンピック・パラリンピック事務局長の捜査から始まった。『文春オンライン』のスクープで実態は明らかだったものの、特捜部は職務権限などで詰め切れず、捜査はその過程で浮上した高橋被告に移行した。
 09年に電通を退任後、コモンズというコンサルタント会社を経営していた高橋被告は、組織委の前の東京五輪・パラリンピック招致委員会で理事長を務める竹田氏との個人的な関係から五輪招致に全力を注ぎ、内外に築いた人脈で「招致票」の獲得に尽力した。その過程で、IOC(国際オリンピック委員会)委員らに対して接待供応を行ない、宝飾や高級時計などを贈るのは当然のことだった。また特定非営利団体である招致委には組織委のような贈収賄罪の規定はなかった。従って招致委から組織委理事にスライドした高橋被告は「同じ形でコンサル業務を行なっただけ。正当な報酬だ」としており、罪の意識はなかった。

談合で今春の起訴めざす

 一方、攻める検察には「高橋の個人犯罪で終わらせてはならない」という思惑があった。東京五輪が電通の総合力に支えられていたことは関係者の共通認識である。五輪のようなビッグイベントは、短期に大量のスタッフを集め、メディアを総動員して告知、広報・宣伝活動を徹底して集客し、会場を手配して警備、役所への根回しによる各種許認可を得なければならない。売上髙5兆円の電通は、五輪のような国策を担う国策企業である。だから高橋被告は腕を振るえた。
 「電通の罪を問わないでどうする」
 これは捜査現場の特捜部だけでなく、東京高検、最高検といった上級庁の認識でもあり、中でも山上秀明最高検次長、落合義和東京高検検事長が「やるべし」とハッパをかけたという。それに応えるように特捜部は公正取引委員会と合同で五輪談合に捜査着手し、電通とイベント企画会社のセレスポが主導してテスト大会の業務をめぐって談合を行なった容疑で、2社を含む9社1企業体の主だったところを家宅捜索した。その捜索先に組織委運営局の森泰夫元次長宅があった。森氏は過去の受注実績などに基づく「一覧表」を作成。電通やセレスポの担当者と情報を共有していた。
 特捜部は、談合事件として詰めの捜査を23年に入っても続けており、春先の起訴を目指す方針。その際、談合だけでなく特定の企業に対する組織委幹部らの口利き疑惑も追及する。まさに特捜捜査は「五輪の闇」を照らすものである。

 

メモ

 【東京五輪・パラリンピックのテスト大会業務をめぐる入札談合事件】東京地検特捜部と公取委は2022年11月、独禁法違反の疑いで、広告最大手「電通」や業界第2位の「博報堂」などに相次いで家宅捜索に入った。テスト大会業務は組織委が発注し、18年5~8月に計26件の競争入札を行ない、9社と1共同企業体が落札した。入札で受注調整を重ねた疑い。契約総額は約5億4000万円に上る。

 

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