社会新報

《通常国会の論点⑩》土地規制法案は軍機保護法の再来 -憲法違反の人権侵害法案-

(社会新報2021年6月2日号2面より)

在日米軍・自衛隊の基地などの監視活動が非合法化される恐れのある「重要土地調査規制法案」が5月11日から衆院内閣委員会で審議入りした。これに対し、「表現の自由と開かれた情報のためのNGO連合」をはじめとする市民グループや労働組合など155団体が17日、連名で法案の撤回を求める「緊急声明」を発表するなど、反対運動が広がっている。
同法案は、自衛隊や米軍の基地などの他、原発といった「国民生活関連施設」の「重要施設」の敷地周囲約1㌔以内や国境離島を「注視区域」に指定し、政府は「区域」内の土地や建物の所有者や利用者の氏名など「政令で定める事項」を調査できるというもの。
また政府は、行政機関や自治体に情報提供を求めたり、「重要施設」や「離島」の「機能」を「阻害する行為」を規制対象にしたりできる。命令違反に対しては、懲役もしくは罰金刑の対象にできる。
さらに「注視区域」のうち、司令部が置かれているといった特に重要な施設は「特別注視区域」に指定され、そこでの土地建物の売買には事前に氏名や利用目的などの提出が義務付けられる。
この法案の最大の問題は、刑罰の明確性を定めた憲法31条に反し、政府の恣意(しい)的運用を可能にしている点だ。
「国民生活関連施設」の指定や調査する情報の内容は「政令」で決定する。さらに「機能」を「阻害する行為」とは何を指すのかも明文化されておらず、政府が定める「基本方針」に委ねられるとされる。

 

戦前の軍事法と共通

これでは、全国各地の米軍基地や自衛隊、原発などを監視している団体・個人の活動が、公安警察や、自衛隊のスパイ組織「情報保全隊」によって、いくらでも恣意的に調査・内偵対象とされてしまう恐れが強い。
このため5月17日に発表された155団体の「緊急声明」は、「安保関連施設を厚いベールで隠し、一切の批判を封じることから、戦争に向かう政策を補強する戦争関連法の一環であると言わざるをえません」と指摘している。
実際、この法案は、防御型軍事施設の周辺地域の撮影等の観測や自由な建築を禁止した戦前の要塞地帯法(1899年制定)や、あらゆる軍事関連施設の撮影、模写等を禁止・制限した軍機保護法(1937年制定)と狙いが共通している。米軍基地が集中する沖縄県では、「戦前に戻ったかのような法案」(『琉球新報』電子版3月7日付社説)といった批判が出ているほどだ。
さらに沖縄弁護士会(畑知成会長)は21日、「プライバシーや思想・良心の自由など多くの基本的人権を侵害する恐れが極めて大きい」として、廃案を求める会長声明を全国初で発表。

 

反基地闘争を標的に

25日には国会内で「憲法と国際人権規約に反する『重要土地調査規制法案』を廃案へ!緊急院内集会」が開かれ、約60人が参加。弁護士の海渡雄一さんが法案を解説し、「ターゲットは反基地・反原発運動だ」と指摘しながら、「これまで公安警察が秘密にやっていた運動の調査がすべて合法化される。廃案にするしかない」と訴えた。
また、オンラインで全国各地からの発言を受け、沖縄で辺野古新基地建設に反対している浦島悦子さんは「いよいよ来たか、という感じがする。この法案が成立すれば反基地運動の拠点が一掃され、ものが言えない戦前のような社会になってしまう」と批判した。

 

↑辺野古での座り込み。左は山城博治さん(2018年4月23日)。