(社会新報12月19日号1面より)
与党と国民民主党が11日、所得税の課税最低限である「年収103万円の壁」の引き上げを178万円を目指して2025年から実施することで合意した。憲法25条が規定する生存権を保障するための基礎控除の引き上げには社民党は賛成だが、その減収分の財源は地方財政や生活を圧迫しないよう防衛費削減などで捻出すべきだ。「103万円の壁」を含めた、さまざまな「年収の壁」の問題点を整理する。
「税金の壁」
「103万円の壁」などは「税金の壁」である。まず、給与収入が100万円を超えると個人住民税の納税義務が生じる。これを「100万円の壁」という。そして話題となっている「103万円の壁」は主に2種類ある。
1つ目が、103万円を超えると所得税の納税義務が生じることである。この103万円とは、所得税の「課税最低限」のことで、「基礎控除」48万円と「給与所得控除の最低保障額」55万円の合計額である。なお、所得税の課税は103万円を超えた部分のみであるため、手取りが減少することはない。
2つ目は、特定扶養親族である19歳から23歳の子(主に学生)の年収が103万円を超えると、扶養者の「扶養控除」が利用できなくなり世帯の所得が急減することだ。この年収要件については、自民・公明・国民民主の税制協議で引き上げを合意した。しかしながら、学生の本分は学業であり、壁を引き上げてさらに働かせるのではなく、大学無償化などにより学生の負担を減らすべきだろう。
さらに、「150万円の壁」もある。「配偶者特別控除」だ。被扶養者の年収が150万円を超えると、扶養者の所得税が満額控除されなくなる。しかし、控除額は段階的に減少するため、手取りの逆転は起きない。なお、年収が201万円となると控除が消失するため、「201万円の壁」と呼ばれている。
「社会保険の壁」
「106万円の壁」も同時並行で議論されている。これは「社会保険の壁」である。
「106万円の壁」とは、第3号被保険者の年収が106万円を超えて、かつ週20時間以上の勤務や企業規模などの要件を満たした場合、3号から外れ、第2号被保険者へ移行することである。社会保険料を納めるため、手取りが減少する。
しかし厚生年金が適用されるため、将来支給される年金の受給額が増加するなど、社会保障は充実する。なお、厚労省は2026年に「106万円の壁」を撤廃することを決め、来年度通常国会で関連法案を提出する予定だ。企業要件も撤廃するため、週20時間未満の労働者と学生以外は、原則、2号に移行することになる。
「130万円の壁」は、3号の年収が130万円を超えると第1号被保険者に移行することである。1号となると、国民年金、国民健康保険の保険料負担が生じるため、手取りが急減する。立憲民主党はこれを「130万円の崖」と表現し、手取り減収分を補うための「就労促進支援給付」を支給する法案を国会へ提出している。
基礎控除と憲法25条の生存権
国民民主党が求めているのは、所得税の「課税最低限」を現行103万円から178万円に引き上げることである。引き上げ額の根拠は、1995年からの最低賃金上昇率1・73倍である。異論が噴出しているが、基礎控除の引き上げ自体は避けられない。基礎控除は憲法25条が規定する生存権の手段だという指摘がある。最低限の生活費には課税しないという理念を踏まえれば、現行の生活状況に見合った引き上げは必要だ。
丁寧な議論と本質的な
引き上げを
しかしながら、政府が国民民主党案で試算すると、住民税などが7・6兆円減収する。なお、この試算は住民税の「課税最低限」も同様に75万円引き上げて算出されたものだ。現行の住民税の「課税最低限」は、一部自治体を除き個人住民税均等割の非課税限度額45万円、給与所得控除の最低保障額55万円の合計で100万円である。また、国民民主党案では高所得者ほど減税効果が高くなる。
もちろん、税収減となる自治体は黙っていない。与党も所得税の基礎控除のみを引き上げる分離案を提案している。とはいえ、地方交付税は所得税収の33・1%を財源としているため、所得税の減収による地方財政の悪化は避けられない。地方財政減収分を補うためには新たな財源が必要だろう。膨張する防衛費の削減などによる捻出が考えられる。
以上のように、「103万円の壁」の引き上げは自治体財政の悪化などを引き起こす。しかし生存権の理念を踏まえると、基礎控除の引き上げは待ったなしだ。だからこそ、選挙目的の拙速な引き上げではなく、丁寧な議論が必要である。低所得者が最も恩恵を享受できる改正を追求していくべきだ。