社会新報

在宅介護が崩壊の危機~訪問介護報酬引下げに不安の声が拡大

訪問介護員(ホームヘルパー)が高齢者や障がい者の自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行なっている。賃金など労働条件の低さからホームヘルパーの担い手が激減している。(写真提供はPIXTA)

 

(社会新報5月23日号1面より)

 

 今年4月1日に、3年ぶりとなる介護保険制度の改定がスタートした。
 今回は、医療保険制度(実施開始は6月1日)、障がい者福祉制度の改定も同時にあるため、6年ぶりのトリプル改定となっているが、主に訪問介護への介護報酬削減(2~3%)が特徴である。ヘルパー不足に拍車をかけるような削減に、訪問介護関係者からは「在宅介護が崩壊してしまう」と不安の声が上がっている。
 訪問介護とは、介護福祉士や介護初任者研修を修了したヘルパーが、月々のケアプランに基づいて介護を必要とする居宅を訪問するという介護サービスのことであり、訪問看護や通所介護(デイサービス)、福祉用具レンタル、そして短期入所(ショートステイ)と共に在宅介護を支える大きな柱の一つである。
 「生活援助」という、独居の人に買い物や掃除・調理といった家事援助を行なう訪問サービスは、在宅生活を続けて自立した生活を送る上で大切なサービスであるにもかかわらず、次のとおり減らされた(1単位=10円)。
▽生活援助(20~45分未満)183単位↓179単位
▽生活援助(45分以上)225単位↓220単位
 また、起床・排せつ・食事・入浴といった日常生活に欠かせない生活動作への介助と、デイサービスなど通所施設への送り迎えを行なう「身体介護」の単位数も次のとおり減らされた。
▽身体介護(20分未満)167単位↓163単位
▽身体介護(20~30分未満)250単位↓244単位
▽身体介護(30~60分未満)396単位↓387単位
▽身体介護(60~90分未満)579単位↓567単位
 さらに、下肢筋力の低下で歩行が困難となり通院・入退院時の移動手段がないという人向けの「通院等乗降介助(介護タクシー)」でも、単位数が99単位から97単位と減らされている。

訪問介護4割が赤字

 すでに今年3月の参院予算委員会で、社民党の福島みずほ党首は、赤字の訪問介護事業所が全体の4割を占めていること、さらに厳しい経営状況の中で人手不足が深刻さを増している実態を指摘し、介護報酬削減をやめるように求めたが、厚生労働省は「介護職員の待遇改善を図って導入された介護職員処遇改善加算を整理し、率を2・1%上昇させたので、介護職員への賃上げは可能」と説明し、そのまま強行した。
 ただ、その介護職員処遇改善加算取得の要件が煩雑で厳しく、訪問介護事業者全体を見ても、他の介護サービス事業者と比較して取得率が低い状態が続いているのである。
 実際、現場からは「介護報酬削減に伴い、勤務日数を減らしてほしいと言われた」との声も上がっており、先行きへの不安から、これを機会に退職するヘルパーも出ていることが報告されている。  
 また、ヘルパーの「高齢化」と人手不足は共に進行している。

ヘルパー不足は深刻

 例えば、厚生労働省の「第182回社会保障審議会給付費分科会(2020年)」の資料によれば、介護ヘルパーの平均年齢は20年の統計で54・3歳。
 さらに55歳以上となると51・2%と過半数を超えていて、60歳以上のヘルパーの割合も39・2%となっている。これは4年前の資料であるから、もっと平均年齢は高まっているし、実際に50代前半のヘルパーが若手扱いになっている。
 もちろん、こうした事態に多くの訪問介護事業所も手をこまねいているわけではなく、あの手この手で求人募集を行なっているが、実際に応募する人は少ないのが現状だ。
 なお、2019年の統計では訪問介護事業所への有効求人倍率は15・3倍となっており、なんとヘルパー1人につき15人分の求人があることを示している。ちなみに、入所施設(特別養護老人ホームや有料老人ホームなど)における有効求人倍率は4・31倍なので、事態は深刻さを増しているといえよう。
 いずれにせよ、こうした訪問介護の介護報酬削減により、いざ利用したいと思っても「ヘルパーがいないので対応ができません」という事態がすでに進行しており、今後の介護保険制度全般に与える影響は計り知れないものとなっているのである。
 
 
 メモ【介護報酬の改定】介護保険法により、原則3年ごとに介護報酬の見直しが行なわれる。前々回(2019年10月)の改定は、消費税の増税に合わせて臨時に報酬額の引き上げが行なわれたが、光熱費やガソリン代など日々の運営費出費の補てんという意味合いが強く、実質的なプラス感は無かった。また、前回(2021年4月)の改定は、新型コロナウイルス感染症への対策を踏まえたものであったが、やはり微増に終わっている。