社会新報

【主張】在宅介護の危機~訪問介護報酬の抜本的引き上げを

(社会新報4月25日号3面より)

 

 「もう訪問介護事業を継続できない」。訪問介護の基本報酬が4月から引き下げられ、訪問介護事業が苦境に陥ったことに関係者から不安の声が上がっている。
 要介護の高齢者が自宅で暮らしていくために、訪問介護は欠かせないサービスだ。ホームヘルパーが身体介護や食事作りなどの生活援助を担い、在宅での生活を支えている。
 政府は、小規模・零細の訪問介護事業の厳しい経営状況を無視して、3年に1度の介護報酬の改定で、4月から訪問介護の基本報酬を2~3%引き下げた。
 2023年の訪問介護事業者の倒産は67件と過去最高。そのほとんどが、小規模・零細事業所だ。今回の引き下げによって小規模・零細事業者の撤退が加速し、在宅介護の基盤が崩壊する恐れがある。
 厚労省は訪問介護の基本報酬を引き下げた理由として、訪問介護の利益率が他の介護サービスよりも高いことを挙げた。同省は22年度の経営実態調査を基に、訪問介護事業所の平均利益率7・8%が介護サービス全体の2・4%を上回り、高いと判断した。しかし、この数字はヘルパーが効率的に訪問できる集合住宅併設型の事業所などが利益率の平均値を引き上げているもので、中小・零細事業者などを合わせた全体の実態からはかけ離れている。
 訪問介護は、他の介護事業と比べて賃金水準が低く、人手不足は深刻。ヘルパーの有効求人倍率は15・5倍と異常な高さ。ヘルパーの給与は常勤で全産業平均より月額で約6万円も少ない。今回の改定では介護職員の処遇改善のため、報酬を0・98%引き上げるとしている。これにより厚労省は職員のベースアップを24年度に月約7500円、25年度に月約6000円と見込む。この少ない賃上げでは介護の人材確保は困難である。
 この間、介護保険をめぐっては、利用率の2割負担の対象者拡大や、要介護1・2の生活援助サービスの保険外しなど、さまざまな改悪案が出てきた。
 政府は「施設から在宅へ」の在宅介護の基本方針に従って医療や介護が連携する地域包括ケアを促進してきたはずだ。訪問介護は在宅介護の柱。その報酬を引き下げたことは介護政策の基本方針に逆行する。
 大軍拡予算を削減し、暮らし・社会保障に予算を回し、介護保険料・利用料の軽減と、介護報酬の抜本的な引き上げを実現しなければならない。