【憲法特集号に寄稿】「憲法審査会の現状と改憲論」~日本体育大学教授(憲法学) 清水雅彦さん
清水雅彦さん
(社会新報5月10日号5面より)
2021年の衆議院選挙の結果、改憲勢力が衆院で4分の3を占めることになった。その結果、これまで通常国会の予算委員会開催中は憲法審査会を開催しないのが慣行だったのに、22年は2月以降、与党と維新の会・国民民主党主導により衆院ではほぼ毎週憲法審査会を開催している。結局、通常国会開会中は16回開催し、過去最多となった。
当初の開催の口実は新型コロナウイルス問題で、3月3日には緊急事態が発生した場合等においてオンラインによる出席も含まれると解釈することができるという意見が「大勢」との報告書をまとめる。そして、臨時国会中の審議では、緊急事態条項の憲法への明記並びに緊急事態に選挙の延期及び議員の任期延長を可能とする改憲の議論を積極的に行なった。
今年の憲法審査会
今年は予算審議中の憲法審査会開催を阻止でき、衆院の憲法審査会は3月2日から始まった。3月30日には維新の会・国民民主党・有志の会が議員任期延長の改憲条文案をまとめる。この案は自民党案と異なる点があるが、いつでもまとまる可能性がある。
これに対して、参院の憲法審査会の審議は4月5日から始まり、参院独特の、参院の緊急集会についての議論を行なった。その後、衆院の憲法審査会は4月13日以降、憲法への自衛隊明記の議論を行なう。ただ、自民党と維新の会は9条への明記を主張したのに対し、公明党は内閣について規定した72・73条への明記を主張し、自民党案に反対した。
そもそも自民党は05年と12年に全面的な改憲案を発表している。しかし、いきなり全面改憲は無理であるし、初めての改憲に失敗すれば、当面、改憲はできなくなる。そこで18年に4項目に絞った改憲案をまとめた。本命は9条改憲であるが、改憲野党も乗りやすい緊急事態条項の議論を先行させ、9条改憲は様子見のような感じである。
緊急事態条項論の問題
昨年から活発に議論が行なわれている議員任期延長の改憲論だが、確かに緊急事態に任期延長するというのは一つの選択肢としてあり得る。
しかし任期の異なる二院制を取っている日本で本当に必要なのか。しかも参院には解散がないし、半数改選である。
また、憲法54条2項の参院の緊急集会は、同条1項で衆院解散から40日以内に総選挙を行ない、その30日以内の国会召集を規定している。そこから、参院の緊急集会は衆院解散後に限定されてしまうとか、70日以上は開催できないといった理由を挙げて改憲が必要という。しかし、衆院の任期満了後や70日以上でも開催は可能との憲法研究者による学説もある。
緊急事態について、18年の自民党案では「大地震その他の異常かつ大規模な災害」とし、3会派案では「武力攻撃、内乱・テロ、自然災害、感染症のまん延、その他これらに匹敵する事態」としており、「その他」に何が入るか分からない。また、自民党案では緊急事態に法律に代わる政令制定を認めており、国会軽視の政治をもたらす危険性がある。
憲法改正手続法の問題
ところで、憲法審査会設置の根拠法である憲法改正手続法は、21年に公選法並びの7項目の改正を行なった。その際に、国民投票運動に際しての有料広告の制限やインターネットの適正利用などについて「必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」という附則4条が加えられる。改憲派はこの問題を無視しているが、まずこの改正が先である。
さらに、そもそも憲法改正手続法が07年に制定された際には、参院で18項目、14年の一部改正の際には衆院で7項目、参院で20項目もの附帯決議がなされた。これらの問題もまだ片付いていない。これらに対応せず、憲法改正の発議を行なうことは許されない。
憲法審査会で議論するとしても、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行[う]」組織でもあるのだから、人権の観点から緊急事態に対応する各種既存の法律の調査・確認や、「戦争法」「安保関連3文書関連法」の憲法適合性について議論すべきである。国民も、今すぐの改憲を望んでいない。
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