社会新報

「再捜査妨害」報道の木原誠二前官房副長官~国民への説明を果たさず交代

 

(社会新報9月27日号1面より)

 

 マイナンバー制度をめぐる混乱などで低迷する内閣支持率の回復を狙い、岸田文雄首相は秋の臨時国会を前に内閣改造・自民党人事に踏み切った。政権発足後、G7広島サミットや日米韓首脳会談などの大舞台をはじめ、近くで首相を支え続けてきた木原誠二官房副長官は交代となった。
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 首相は留任を打診したが、木原氏本人が強く断ってきたという。背景には、週刊文春による木原氏のスキャンダル報道が相次ぎ、オモテの場に出られない状況が続いていたことが大きい。愛人との間に子どもがいたことや、性風俗店を利用していたことなどが次々と報じられたが、最も世間から注目され、批判を浴びたのは、木原氏の妻の元夫が死亡した「事件」の再捜査をめぐり、木原氏らが政治介入した疑惑についてだ。
 週刊文春報道などをもとに「事件」を振り返る。木原氏の妻(A子さん)の元夫の安田種雄さん=享年28=が2006年4月10日、自宅で大量の血を流して亡くなっているのが見つかった。所轄の警視庁大塚署は当時、「覚醒剤を一度に摂取したことによる精神錯乱で自殺した可能性が高い」と判断していた。

捜査1課が再捜査開始

 だが、12年後の2018年4月、警視庁捜査1課が管内の不審死事案を洗い直した結果、現場の状況などから「事件の可能性が高い」と判断され、再捜査の対象となった。自宅の天井にまで血液が飛散していたが、使われたナイフの刃や柄にはわずかな量しか血が付着していないなど、自殺と判断するには不自然な点が多く見つかったという。
 殺人捜査のエキスパートが動員され、40人ほどの合同捜査班が作られた。この時、捜査1課の取調官だった佐藤誠氏も捜査に加わった。文春報道後の今年7月に記者会見を開き、当時の捜査について実名で証言した人物だ。
 警視庁の捜査員は再捜査で、06年当時、A子さんと交際していた男性(Y氏)と接触。別事件で刑務所に収監されていたY氏との数十回の面会のなかで、遺体発見直前にY氏がA子さんから電話で連絡を受け、安田さんの自宅に駆けつけていたという重要証言を引き出す。A子さんから「ナイフに指紋が付いた」といわれたため、柄の部分の粘着テープをはがしたことや、A子さんに血の付いたシャツを着替えるように指示したこと、警察には「朝起きたら死んでいた」と話すように助言したことなど、証言は具体的だった。Y氏が訪れたことは、自動車ナンバー自動読み取り装置(Nシステム)の記録でも裏付けられたという。
 文春報道は、A子さんの事件への関与を強く疑わせる内容となっている。一方、木原氏による介入疑惑は、再捜査が始まった18年。このときすでにA子さんは木原氏と再婚していた。木原氏は再捜査に対し、難色を示していたという。

捜査への妨害示す音声

 文春は、任意で事情を聞かれたA子さんに対し、木原氏とされる人物が語りかけているドライブレコーダー記録を入手し、こう報じている。「俺が手を回しておいたから心配するな。刑事の話には乗るなよ。これは絶対言っちゃ駄目だぞ。それはわななんだから」「国会が始まれば捜査は終わる。刑事の問いかけには黙っておけ」
 木原氏が本当に手を回したのかどうかは分からない。ただ、実際にA子さんへの任意聴取は国会が始まる前の10日間ほどで終わり、その後は打ち切られたという。再捜査について、警視庁幹部から事前に政権幹部に情報がもたらされていたとみるのが自然だろう。佐藤氏は会見で「A子さんへの取り調べが本格化する前、(警視庁の)上司から『二階俊博幹事長が取り調べを了承してくれた』と聞いた後は、取り調べがしやすくなった。二階さんには感謝している」と述べた。木原氏は当初、任意聴取について抵抗していたが、ある時点から応じるようになったという。
 だが、そもそも政治家から捜査の了承を得ることなど、不要であり不当だ。この時点ですでに「事件にしない」という筋書きができていた可能性がある。仮に政権与党の政治家が捜査に口出しし、打ち切られていたならば大問題だ。「木原疑惑」の本質はここにあり、世間の注目もそこに集まっている。
 そして何よりも、真相解明がおざなりにされてしまえば故人の無念は晴れず、遺族の苦しみは続く。倒れている安田さんを発見し、通報した父親は事件直前、A子さんとの離婚を決意していた安田さんから、子どもの親権について相談を受けていたという。亡くなった当日は、安田さんが子どもを車で自宅に連れて帰った日だった。父親は「子どもを抱いて家に戻ってきたのに自殺するだろうか」と疑問を投げかける。

新聞・テレビが報じない

 ところが、警察庁の露木康浩長官は7月の会見で「適正に捜査は行なわれた。自殺と考えて矛盾はなく事件性は認められない」と述べた。佐藤氏は「まず遺族に伝えるのが捜査機関のあるべき姿だ。遺族に再捜査の結論を伝えないうちに、『事件性はない』と長官が言い切ってしまった」と問題視する。
 そもそも、警察庁長官が個別事件に言及することは異例だ。ある新聞記者は「警視庁クラブに在籍する新聞・テレビ各社への『後追いするな』というメッセージだ」と解説する。事実、一般紙やテレビ各局はこの問題を報じることもなく、官房長官会見や首相会見でくり返し質問する記者もいない。
 権力により政治家と家族は「特権」で守られ、捜査機関もメディアの監視も機能せず、一般市民の命が見捨てられる。これでは独裁国家と変わらない。

 

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