社会新報

【主張】元首相5人のEUへの書簡~国は小児甲状腺がんの事例と向き合うべき~

(社会新報2022年3月2日号3面【主張】より)

 

 5人の首相経験者(村山富市、細川護熙、小泉純一郎、菅直人、鳩山由紀夫の各氏)がEU(欧州連合)に送った書簡が波紋を呼んでいる。発電時に二酸化炭素を出さない原発を気候危機対策などの投資先に認定するEUの方針を撤回すべきとの趣旨で送られたものだ。書簡の一節に、2011年の東京電力福島第1原発事故により、「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」との記載があったことに対し、2月1日に山口壯環境相は、福島県の専門家会議で「現時点では放射能の影響とは考えにくい」との評価がなされている点などを踏まえ、「誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長する」として、5人に対し抗議を含めた申し入れ書が提出した。翌2日に内堀雅雄福島県知事も同趣旨で5人に申し入れている。

 この一連の動きを受け、2月4日、社民党福島県連は内堀知事に「県民の心情を代弁したものとは思われない」と抗議文を送った。現に1月27日、小児甲状腺がん患者6人が東電を相手取って損害賠償訴訟を起こしていることを例に上げて、知事の申し入れは、現在、甲状腺がんまたはがんの疑いで苦しんでいる266人と原発事故による被害者らに、「自己責任を押しつけるようなものではないか」と抗議している。そして、環境相や知事が批判の根拠とする専門家会議でも、「結論付けるのは時期早々」「被ばく被害の可能性も考慮」と見解が分かれていることを指摘。そのような状況で知事が「被ばくの影響とは考えにくい」と結論づけるような発言をするようでは、「県民の寄るべき処がなくなる」と訴えた。

 通常、小児の甲状腺がんはほとんどない。にもかかわらず3・11以降の福島では、小児甲状腺がん患者の事例が複数存在している。この事実を受け止め、放射能の影響を受けた可能性を排除せず、長期的に検査と治療を行ない、調査を続けていくことが必要だ。また、放射能の影響を受けた病気の発症は、事故から数年で現れるとは限らない。数十年間のスパンで人体にどう影響を与えるのか否かを調査し分析する必要がある。

 都合の悪いことはなかったことにしてしまう、それが今、この国の当たり前の作法になりつつある。書簡に込められたのは、かつて、この国の首相として原発推進を容認し、止められなかったことへの反省だ。

 現実に向き合わずに、解決の道は開けない。

 

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