社会新報

ミャンマー軍に日本の官民資金が流入-日本政府はODAと官民連合の資金凍結を

(社会新報2021年4月14日号1面より)

 

ミャンマーのクーデター軍による市民無差別虐殺が続く状況下、日本の官民資金が軍を支えている構造がある。軍への資金源を断絶すべきだが、日本政府はODA全面凍結などに消極的だ。福永正明・岐阜女子大学南アジア研究センター副センター長・客員教授に寄稿していただいた。

 

 

ミャンマー(ビルマ)の国軍クーデター後、アウンサンスーチー氏ら拘束者の解放と民主政治復活を求め、「CDM(市民の不服従運動)」が続く。昨年11月の議会選挙で当選した議員が「CRPH」(連邦議会代表委員会)を結成。臨時政府樹立へ向かいつつある。

軍は在宅の子どもすら銃殺する無差別凶暴弾圧を継続しており、4月7日現在の拘束者は2,847人、死亡者数は598人に上る。軍の悪行はSNSで瞬時に世界各地へ拡散されており、支援も活発だ。

アウンサンスーチー氏主導の国民民主連盟(NLD)は、2015年11月選挙で大勝、翌年3月に新政権の民政となった。だが憲法は議会の4分の1の議席を軍指名選出として軍の政治権力を認めており、民主政治とは呼べない状況でもあった。

NLD政権は、規制緩和・外国直接投資の積極誘致策を採用した。それは日本の政府開発援助(ODA)、民間投資が支えたものだった。16年11月、アウンサンスーチー国家顧問兼外相が来日した際、安倍首相は「官民を挙げて新政権を全力で支援する。ODAと民間投資により今後5年間で8,000億円規模を支援する」と表明した。

19年度実績の日本のODAは1,893億円(円借款1,688億円、無償資金協力138億円、技術協力66億円)で、先進国最大支援国となった。ミャンマーでは年1,900億円のODA事業、民間企業の直接投資の急拡大を得て経済成長が進む。

 

ヤンゴン開発が疑惑

一方、国際援助監視団体は、軍へのODAや民間投資の流入問題を指摘する。最大疑惑は、17年開始の「ヤンゴン市内都市開発事業」(Yコンプレックス)である。これは公的資金(国民の税金)でのODA事業であり、官民連合が総額377億円を投じる。国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(国土交通省管轄の官製ファンド、JOIN)が融資・出資し、民間金融機関や企業が主体となって、ヤンゴン中心部の軍事博物館跡地でホテルやオフィスなど複合施設を建設運営する。
事業主体の現地法人には日本側(東京建物、フジタ・JOINによる共同子会社)が80%出資し、20%を軍関係企業子会社が出資する。

 

巨額賃料が軍の手に

事業用地が軍の所有地であるため、土地賃借料の年間220万ドルは国防省に支払われる。国防省は軍の支配下にあると憲法で定められており、「国軍との直接取引ではない」との日本側説明は弱い。

巨額の賃料が軍に流入し、武器購入、人権侵害、汚職腐敗の資金とされてきた。民間企業も、経営理念や社会的責任として軍への資金供与は認められるべきではない。民主化運動は、「日本が軍を助けている」と本事業を批判する。

欧米各国首脳は、クーデター直後から暴挙を厳しく非難し、制裁レベルを次々と引き上げた。だが日本政府は、「独自の立場」からODA停止や軍への制裁には消極的だ。「独自の立場」とは、長年の軍との関係から軍に働きかけが続行であることだという。

また従来のミャンマー支援の規模では、軍と友好的な中国が突出している。中国はインド洋からエネルギーを運ぶ長距離パイプラインを建設し、新首都建設など巨額のインフラストラクチャー支援策を展開した。中国はミャンマーを「一帯一路構想」の拠点国としている。そのため、日本が制裁に動けば軍は中国に接近するとの懸念の声もある。果たしてこのような融和だけの日本外交にとって、重要なのは何なのであろう。

 

日本の「無価値外交」

「価値観外交」を標榜(ひょうぼう)しているはずの日本政府の無策は、人の命を軽視する「無価値外交」の証左である。2月に在ミャンマー日本大使が国軍指名の「外相」なる人物と面会したとの報は、ミャンマー内外の人びとを驚がくさせ、落胆させた。

CDMは20~30歳代の若者を主体として全土に拡大してCRPHに結集し、新「憲章」制定による憲法破棄、「臨時政府」の樹立、少数民族とも共存する「新連邦」と文民統制の新政権樹立に向かう。

本来の「価値観外交」とは、「民主政治と人権」の重視である。日本も、菅首相自らが市民虐殺行為の即時停止と拘束者解放を要求し、制裁を表明すべきだ。

現地や在日のミャンマーの人びとは、日本に「人を大切にする国家」であることを期待する。だが日本の先延ばし外交は、人びとの落胆や絶望を生んでいる。

社民党の福島みずほ党首は、「軍よりも人」と表明し、ODAを含む一切の経済支援停止だけでなく、民主化・難民支援、在日ミャンマー人保護を強調する。

「人」を大切にすることを優先すべきであり、軍より国民との連帯である。世界のどこでも、誰もが、平穏に暮らせるようになるために、私たちは努力を続けよう。

 

■ふくなが・まさあき 1955年生まれ。岐阜女子大学南アジア研究センター副センター長・客員教授。インド国立バナーラス・ヒンドゥー大学の社会学博士学位取得。専門は南アジアの動向分析、インド社会階層研究。