社会新報

現行の健康保険証は存続を~マイナンバーカード問題を白石孝さんに聞く(第1回)

マイナンバーカードの見本(総務省提供)。

 

(社会新報8月2日号1面より)

 

 岸田内閣の支持率が急降下。7月23日発表の毎日新聞の世論調査では1ヵ月前に比べ5ポイント下がり26%に下落。不支持率は65%に達した。各社の調査でも軒並み支持率は下落しており、原因がマイナンバーカードをめぐるトラブルの多発にあるのは明らかだ。毎日の調査でもマイナンバー制度に「不安を感じる」が63%。「不安を感じない」の25%を大きく上回った。

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 マイナカードをめぐっては、別人の証明書が発行されたり、マイナポイントが別人に発行されたりなどのトラブルが続発。「ポイントではなくトラブルがひもづけられた」とネット上でやゆされる始末だ。
 中でも不評なのが、マイナカードに健康保険証をひもづけするマイナ保険証。政府は来秋までに現在の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化すると発表。これが大きな批判を招いているのだ。
 「2万円のマイナポイントを付けたことでマイナカードの申請率は一気に80%に達しました。しかし残りの20%は『メリットを感じない』として申請していません。そこで政府は、すべての国民が持っている健康保険証を人質に取り、強引に国民全員にマイナンバーカードを持たせようとしているのです」
 そう語るのはマイナンバーカード制度に詳しい白石孝さん(プライバシー・アクション代表)だ。白石さんは、国民全員に番号を付ける制度が法案化された2012年ごろから、制度の問題点を指摘し続けてきた。共著書に『マイナンバー制度 番号管理から住民を守る』がある。
カード取得はあくまでも任意
 白石さんは「マイナンバー制度についてのテレビのワイドショーなどの識者の解説を聞いていると、個人番号とカードの問題をごっちゃにしていると感じる」として、こう語る。
 「まず個人番号ですが、これは日本に住民登録した日本人と外国人全員に12ケタの数字として自動的に付番されます。付番を実施するのは国と自治体が共同管理するJ―LIS(地方公共団体情報システム機構)という法人です。これに対し、いま問題になっているマイナカードは、取得するかどうかを個人が決める仕組みです。つまり任意であって、国や自治体が強制的に押しつけてはいけないのです」
 だが岸田政権は「現在の保険証は来秋廃止にする」と国民を脅して、マイナカード取得とマイナ保険証への切り替えを事実上、強要しているのだ。
 「現在の保険証は、毎月1回、医療機関を受診するときに提示すればよく、お年寄りには大変便利です。ところがマイナ保険証にすると、受診のたびに持っていかねばならず、その上、オンラインのカードリーダーでの顔認証もしくは暗証番号入力による本人確認作業が必要です。認知症の高齢者や知的障害者の人にとって、暗証番号を覚えることは容易ではありません。便利な保険証を廃止して、マイナ保険証に一本化するのは、誰が考えてもおかしい」(白石さん)
使い勝手の悪さ露呈し大混乱
 本紙記者はマイナ保険証の使い勝手の悪さを実際に見たことがある
 埼玉県のクリニックを記者が受診したとき、70歳程度の男性がマイナ保険証をオンラインのカードリーダーに置いた。男性は画面上に表示された顔認証ボタンを押したが反応しない。そこで受付の職員が「暗証番号を入力して下さい」とアドバイスしたが、覚えていないという。やむなく男性は家人に電話して、自分の暗証番号を聞いて、ようやく受診できた。職員は男性に「顔認証機能は使えないことが多いし、暗証番号なんて皆さん覚えていない。うちも迷惑しているんです」としきりに言い訳していた。
 このクリニックはマイナ保険証への切り替えを迷惑がっていたが、他の開業医はどうか。データはやや古いが、20年に医師向けのネットマガジン『m
3.comが会員にアンケートしたところ、開業医の3割がマイナ保険証への切り替えを「デメリットの方が大きい」と回答。メリットの方が大きいという答えは約22%だった。
 「マイナ保険証への切り替えは、入所者の健康保険証を管理している施設側にとっても大問題です。全国保険医団体連合会のアンケートによると、マイナ保険証に一本化された場合、入所者の健康管理ができるかと聞かれ、94%の施設が『できない』と答えています。理由は『カード・暗証番号の管理が困難で紛失時の責任が重い』『不正利用、情報漏洩への懸念』。このままでは認知症などでマイナカードの申請できない大勢の人が、保険に加入しているのに『無保険者』にされてしまう危険性があります」(白石さん)
 政府は保険証廃止後も1年間は有効だと説明しているが、強権的な手法は事態を混乱させるだけ。国民皆保険の象徴である現在の保険証は絶対に廃止すべきではない

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白石孝さんの略歴
しらいし・たかし 1950年生まれ。プライバシー・アクション代表。NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長、NPO法人日本ラオス子どもの未来理事長、荒川区職労顧問。共同テーブル発起人。住基ネットなどに反対する全国運動を展開。

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 メモ【諸外国の共通番号制度】G7加盟国のうち、英国、フランス、ドイツがいずれも廃止・撤回。英国では2006年にIDカード法を成立したが、反対の声が強く2010年に廃止。ドイツでは個人識別番号を利用することは憲法違反との判決もあり、共通番号はない。フランスでは1972年に個人共通番号の「SAFARI」計画を検討したが、反対運動で撤回。米国の社会保障番号は、取得は任意で、情報漏えいと「なりすまし」被害事件が相次ぎ、韓国も同様の被害事件が続出。日本は世界の共通番号廃止の趨勢(すうせい)に逆行している。