(社会新報2021年5月19日号2面より)
「病床のひっ迫」が叫ばれるコロナ感染症の最中に、事態に逆行する医療法等改正案が強行されようとしている。病床削減と病院の統廃合、医師養成数の削減を前提にした長時間労働を認める内容だ。
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この悪質な内容をマスコミもほとんど報道せず、国民は知らないままである。国会でも、厚生労働省職員の送別会やワクチン対応などで時間が削られ、審議が不十分で、すでに衆院本会議で可決されている。
この法案は、病床を削減すれば1床ごとに国の消費税財源から給付金を継続的に支給するというもの。給付額は病床稼働率の高さに応じて単価を高くしている。連日、空きベッドがない状態なら、稼働率は100%となる。
稼働率100%誘導
図①のように、例えば100床の病院で稼働率が75%だからと25床を削減すれば、1床当たり単価182万4,000円を支給する。25床削減すれば、単純計算で100%の病床稼働率となる。当然、この病院では日々「病床ひっ迫」となる。さらに5床削減すると1床当たりの単価は228万円を支給するという制度だ。すると「平時」でも「入院受け入れ拒否」の病院となる。
「医療提供体制の構築」をうたっているが、言葉だけだ。この間の保健所・病床の削減などに対する国の反省が全くなく、2019年に大問題となった「統廃合を求める436病院リスト」の撤回すらしていない。コロナ患者を受け入れる上で大きな役割を果たしている公立病院を、さらに統廃合しようとしている。病院の統廃合にかける予算は、消費税財源から合わせて2021年度で195億円としている。
消費税還元が統廃合
政府はこれまで消費税を「社会保障に充てる」としてきたが、肝心な医療をつぶすための財源にしてしまった。また医療機関から国に納付させ続けている多額な消費税、例えば402床の市立甲府病院では国に納付するだけの消費税額は毎年3億円にもなるが、病床削減と病院統廃合に使われることになる。
しかも政府は、このコロナ災害時にも病床削減を進めている。2020年2月末からの1年間で、すでに約2万888床も削減している。
厚生労働省によると、国内感染患者数の24%(5月5日現在)しか入院できていない。大阪府では入院はわずか10%である。大阪府では無医療状態のまま自宅でなくなった患者が18人に上ると発表した。実際の死亡者は、はるかに多いはずだ。
医療従事者の扱いもひどくなる。OECD諸国で最低レベルの日本の医師養成数を是正するのではなく、さらに医学部定員数を削減する方針を前提にしている。
また、医療関係職種の検査技師や救急救命士などに医師本来の業務を担わせようとしている。医師の働き方改革を宣伝する一方で、過労死ラインの時間外年960時間以上を認め、さらには時間外1,860時間の超長時間を追認している。
医療の公的責任放棄
事態は「変異株」の問題だけではない、ましてや国民の「自己責任」ではない。大阪府も国も、いのちを守るという公的責任を放棄し、医療を破壊してきたことの結果だ。病床が足りず、実質的に「医療崩壊」状態になっている大阪府では、20年1月から21年1月までのコロナ災害期に569床も削減している。
明らかに、ゆとりある医療提供体制の確保が「平時」から求められている。にもかかわらず政府は、「有事」の感染症の最中に真逆な法律を強行しようとしている。
こうした極めて悪質な法改正の内容を、苦闘している医療従事者をはじめ国民全体に認識してもらい、いのちを守る取り組みを進めることが、緊急に求められている。