(社会新報2021年8月18日号3面《主張》より)
「黒い雨」裁判の勝訴判決がやっと確定した。
広島高裁判決が国の上告断念により確定したことを受けて、広島市は8月2日から早速、市内の原告53人に対して、順次、被爆者健康手帳の交付をスタートした。広島県は残りの原告31人が住む自治体に手帳を発送している。
7月14日の広島高裁判決は、昨年の一審広島地裁判決に続いて原告84人全員を被爆者と認定し、県と市に被爆者健康手帳の交付を命じた。訴訟に参加する国は、県と市の上告見送りを求める強い要望を受け、27日に首相談話を発表し、上告を見送った。
社民党は7月21日、立憲民主党、共産党、国民民主党と共同で、厚生労働省に対して、原告の高齢化により一刻も早い救済が求められることから最高裁判決を待つのではなく、8月6日の広島での平和記念式典より前に、上告の断念を表明して救済の道筋をつけるよう求めていた。
広島の「黒い雨」とは、1945年8月6日、米国による広島への原爆投下直後、爆心地の広島市やその周辺に降った放射性物質などを含む雨のことだ。国は、爆心地隣接の地域を、「被爆地域」に指定し、被爆者健康手帳を交付した。さらに76年、降雨区域として北西側の長さ約19㌔・幅約11㌔の楕円形の地域を「特例区域」とし、同区域内にいた人で被爆関連の疾患がある場合に被爆者健康手帳が交付された。
「黒い雨」訴訟は、その特例区域の外にいて「黒い雨」に遭った人たちが原告となって被爆者健康手帳の交付などを求めた裁判である。二審判決が画期的なのは、降雨区域の「線引き」よりも、住民たちの「黒い雨に遭った」という供述などを基に、積極的に被爆者として認定するよう国に求めた点だ。さらに、「黒い雨」を体内に入れた内部被ばくした人も健康被害を受ける可能性があり、被爆者と認められると踏み込んでいることだ。
広島県と広島市は国が線引きをした区域の約6倍の面積で「黒い雨」が降ったとみており、救済の対象者は13000人に上ると推定している。今回の首相談話でも「訴訟への参加・不参加にかかわらず」救済を検討するとしており、国は、原告84人以外の黒い雨に遭ったとみられる人たちへの調査を直ちに実施し、早急な救済措置を講じるべきだ。被爆者の平均年齢は80代半ばと高齢化し、一刻も早い救済が求められる。