(社会新報2021年9月15日号3面《主張》より)
自民党総裁である菅首相が9月3日、総裁選(29日投開票)に立候補せず、退陣することを明らかにした。
この退陣表明は、新型コロナウイルス対策の失政で追い詰められた末に首相・総裁の座を投げ出したものであり、「無責任極まりない」(福島みずほ社民党党首)と表現するほかない。
デルタ株が感染拡大する中で、菅内閣は東京五輪・パラリンピックの開催を強行し、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を繰り返すばかりで、対策は全くの後手に回った。医療提供体制が追いつかず「医療崩壊」に至る状況下、政府は8月、入院対象者を重症者らに限定し、中等症の人は「自宅療養」とする方針を決めた。自宅療養中に命を落とすケースが相次ぎ、救われるべき命が失われた。これは「棄民政策」だ。
五輪・パラリンピック開催と並行してデルタ株が急拡大し、8月に入って全国で1日の感染者が2万5000人を超えるなど、過去最多を更新した。内閣支持率も30%を割り込んだ。
その状況を打開すべく二階俊博幹事長の交代など党人事と内閣改造で総裁選を乗り切ろうとしたが、不発に終わった。
菅政権は、安倍政権の継承を掲げた。9年以上続いた安倍・菅政権の特色を一言で表現すれば、強権による忖度(そんたく)と腐敗とも言えよう。内閣人事局長が霞が関官僚の幹部人事ににらみを利かせ、官邸の意に背く者を冷遇する恐怖人事を強行した。帰結として、官僚たちが官邸の顔色をうかがう忖度が横行し、森友学園事件の公文書改ざん事件も起きた。
日本学術会議への人事介入もあった。理由も明かさず新会員候補6人の任命を拒否し、憲法で保障される「学問の自由」を侵害した。
「政治とカネ」事件が相次いだ。今月7日、東京地裁は統合型リゾート(IR)をめぐる収賄罪と証人等買収の罪で秋元司被告(衆院議員)に懲役4年の実刑判決を言い渡した。菅政権の1年間で自民党国会議員5人が有罪判決を受けた。また、菅氏が安倍内閣の官房長官時代に、「集団的自衛権の行使」を容認する戦争法を強行した。歴代の内閣法制局の憲法解釈を一内閣の判断で変更した。
自民党総裁選で誰が総裁になったとしても、命と暮らしと人権を全く軽んじてきた自公政治の行き詰まりを打開することはできない。次期衆院選で政権交代を実現し、自公政治に終止符を打たなければならない。