(社会新報2022年4月20日号3面より)
性暴力、虐待、生活困窮などに苦しむ女性を支える「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」案が提出された。与野党の女性議員らが作成し、全党の了承が得られ、今国会で早期成立を目指している。
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「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案」の制定は2つの作業を行なう。売春防止法(メモ)から「補導処分」と「保護更生」に関する条文を切り離して廃止。同時に、人権の擁護、男女平等の実現を明記した新たな法律に、保護更生で行なわれている「婦人保護事業」を組み込む(図)。
SOSの声出せない
66年前に制定された売春防止法は抜本的な見直しがなされずに現在に至っている。売防法によって売春業者が逮捕され、女性が救出される場合もあるが、逮捕されるのは性虐待や貧困が原因で行き場を失った10代や障害のある女性などだ。また、補導処分は執行猶予となった20 歳以上の女性を「婦人補導院」に強制的に収容して矯正する制度。1993年以降、収容者はゼロか1人が続く。
逮捕や補導処分を恐れて、最も困難に直面している女性がSOSの声を出せないのが実情だ。性差別社会が生み出す被害者を蔑視する補導処分、保護更生を廃止する意義は大きい。
婦人保護事業は限界
婦人保護事業は、「売春を行うおそれのある婦女」(要保護女子)が対象。
婦人相談所、婦人相談員、婦人保護施設の3機関を都道府県などが実施する。
配偶者からの暴力防止法(2001年)によりDV被害者が婦人保護事業の対象になり、ストーカー、人身取引、性暴力などにも拡大されてきた。被害が多様化、複雑化しているが、売防法が根拠であるために考え方や対応が制限され、事業の限界が指摘されてきた。
現場の担当者らは「福祉的な視点が必要」と訴え、民間の支援団体は「支援が必要な人ほど公的支援が届かない」と悲痛な声が上がっている。そこにコロナ禍が社会的に弱い立場にある女性を直撃し、売防法からの脱却を目指す新法が加速した。
民間団体との協働
新法は目的に、人権尊重、女性が安心かつ自立して暮らせる社会の実現を示す。理念には、個々の状況に応じた包括的な支援や男女平等の実現を明記する。
対象の年齢は問わず、子どものいる女性、障害者、外国人など幅が広い。新たに従来の「性虐待」より広義の「性的な被害」を設け、性的搾取、予期せぬ妊娠などにも対応する。国が支援策の基本方針を定め、それに基づいて都道府県が計画を作るよう義務づけ、自治体間の格差を是正する。
これまで民間団体は当事者の立場に立って相談、訪問、巡回やシェルターの提供などを担ってきた。その実績を重視し、自治体と民間団体との協働による支援や連携するための会議設置も盛り込まれている。
予算確保が課題
新法を動かすためには、専門的な知識と経験を持つ人材の確保がカギとなる。売防法には、17年まで「婦人相談員は非常勤」とする条文があった。婦人相談員は、都道府県、市区(48%が配置)とも85%が非正規であり正規化や待遇改善が急務。予算の確保、24年度の施行までの手当も必要となり、課題は山積みだ。
今回、新法が成立しても売春防止法の本体は存続する。新法を展開し抜本改正につなげていきたい。(政策審議会・小林わかば)
売買春斡旋業者とそれに癒着する男性議員らの激しい妨害に抗して、全国の女性団体、女性議員らが結束して運動を展開▼追い込まれた政府が法案を提出。1956年に成立▼単純売春(不特定多数を相手として対価を得て性行為を行う)は違法であるが処罰は科されない。売春の勧誘や周旋などが処罰の対象。買春した男性は処罰の対象外▼女性議員らが目指した法とはならなかったが公娼制度に終止符を打った▼だが、業者は風営法の改定などにより姿かたちを変えて存続する▼業者は風営法の改定などにより姿形を変えて存続。売買春を容認する社会を増長している。
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