社会新報

【主張】「佐渡金山」推薦問題 朝鮮人強制連行の歴史を忘れるな

(社会新報2022年2月16日号3面【主張】より)

 

 岸田文雄首相は1月28日、新潟県の佐渡島金山を世界文化遺産の候補として国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦すると表明した。これは韓国との不要な対立をあおり、国際社会における日本の信用性を大きく損ねる行為だ。

 政府はこれまで世界記憶遺産について、2015年に中国が「南京大虐殺文書」を申請して登録され、16年には日本と韓国などの市民団体が日本軍「慰安婦」関連資料を申請したことに「政治利用だ」と反発し、ユネスコに対し「加盟国の反対がある限り遺産登録を見合わせる」との改革案を認めさせた経緯がある。

 ところが昨年12月に文化庁の文化審議会が佐渡金山を推薦候補に選定するよう答申する前後から、韓国政府の反対は確実視されていた。自分でルールを変更させておきながら、なぜ他国の反対があるのを承知で推薦を強行したのか。

 文化庁の文化審議会は「16~19世紀の伝統的手工業による生産技術」を推薦理由にしているが、佐渡金山は、戦時中の朝鮮人労働者に対する強制労働の悲惨な歴史と切り離すことはできない。なぜ、そうした小細工をろうするのか。

 政府は15年、「明治の産業革命遺産」23ヵ所の一つとして長崎県の旧炭鉱地「軍艦島」が世界文化遺産に登録申請された際、「歴史全体」を伝えると約束。しかもその際、政府は「朝鮮半島出身者が『自らの意思に反して』動員され、厳しい環境下で働らかされた。犠牲者を記憶するための情報センターの設置のような措置を取る」とも約束していた。ところが、そうした趣旨で建設されたはずの「産業遺産情報センター」(東京都新宿区)には、逆に朝鮮人に対する差別も強制労働も展示物から一切消されている。このため、ユネスコは昨年7月、日本政府に対し「約束の忠実な履行」を求める決議文まで採択したが、今日まで無視されている。ここまで自らの約束を次々と破る政府に、佐渡金山を推薦する資格などない。韓国側の反対も当然だ。

 今回の岸田首相の表明前に、外務省では推薦は無理筋との判断が有力だった。それを圧力で覆したのは、安倍晋三元首相や高市早苗衆議院議員ら自民党タカ派だ。その狙いは、植民地にした朝鮮半島からの強制労働動員の歴史的事実を抹消することにある。このままでは隣国関係がさらに悪化し、日本の国際的評価も地に落ちるのは疑いない。

 

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