社会新報

参院選結果どうみる 識者らが語る㊦

(社会新報2022年8月3日号2面より)

 

民主主義の復元に一縷の希望
安保法制違憲訴訟の会共同代表・杉浦ひとみさん

 選挙結果は与党の圧勝、改憲勢力の3分の2議席超の獲得。立憲野党の退潮。正直、専守防衛に反し違憲である安保法制の改正や廃止による憲法の復元どころではなく、憲法そのものが危ない状態になった。そうなれば、22の都道府県で25の裁判を起こし「安保法制は違憲」であると裁判で闘ってきた土台を失う。議席数でみれば暗たんたる状態である。

 しかし他方で、民主主義の復元に一縷(いちる)の希望を持った。自民党が普通の政党になるかもしれないという希望である。くしくも投票日の前々日に安倍元首相が狙撃され亡くなるという事件が発生した。このことの影響は大きいのではないか。

 安倍氏の8年間の首相在任期間、議会の民主主義は壊されていた。どんな失態があっても自ら引かない。窮地はうそでやり過ごす。(「総理も議員も辞める」などの)その場しのぎの口約束は行政担当者を自死にも追いやった。議会は議論でなく数で押し通す。危険な時は判断者を変えて赤信号を青にする。民意を無視する空気をつくるーー。

 与党あるいはそれに与する議員は、それにならい、無責任でもモラルに反してもよいのだと学んだのではないか。

 だが、ここまでの鉄面皮な行動は安倍氏でなければ取れなかったのではないだろうか。

 安倍氏が亡くなり、自民党にはびこってきた「安定感」にも変化が表れると思われる。また、五輪関係者の収賄事件に検察庁が手をつけるなど、正義の目覚めも感じる。

 この機会にこそ、政治家は市民の声に耳を貸すべきなのだという当たり前の雰囲気を、先手を打ってつくるべきだ。

 勢いを感じる芽は、社民党(特に「みずほを国会に」と)の比例票の増加を支えた女性たちの動きだ。いくつかの気配を風に変え、来年4月に行なわれる統一自治体選挙に照準を合わせよう。

 

杉浦ひとみさん

 

「沖縄無視選挙」に怒りの声を
米イェール大学学生・西尾慧吾さん

 今回の参院選も「沖縄無視選挙」だった。

 政権与党は、沖縄県外では沖縄について論点隠しを続け、立憲野党もコロナや物価高対策に焦点を置きがちだった。安倍元首相の殺害事件にはあらゆる党がコメントを出す一方、その前日の7月7日に沖縄県金武町の住宅に米軍の実弾訓練に由来すると疑われる銃弾が撃ち込まれた事件について、沖縄県外の選挙運動でどれほどの言及がなされただろうか。立憲野党まで、沖縄の住民の平和的生存権が米軍に脅かされることへの問題意識が不足していたのではないか。

 沖縄選挙区では、辺野古新基地建設反対を掲げた伊波洋一候補が当選した。しかし岸田政権は、選挙直後から辺野古への土砂投入を強行している。7月19日、宮古島海上保安部所属の巡視船が、20㍉機関砲を陸地側に向けて実弾8発を誤射した。宮古島には弾薬庫や航空燃料の給油施設があり、そこが被弾すれば大規模な住民犠牲は免れない。万一、海に向けて誤射され、他国の船を撃ってしまえば、武力衝突の怖れもある。9月には重要土地規制法が施行され、市民運動への監視・弾圧が一層、強化されることが懸念される。9月11日に知事選を控える沖縄では、反基地闘争がますます締めつけられる不安がある。これ以上、沖縄をひとごと扱いしてはならない。

 先の参院選で、社民党の沖縄県での比例得票率は10・99%。「沖縄を再び戦場にしない」と掲げた宮城イチロ候補が福島みずほ党首に次ぐ個人名票を獲得した。「頑固に平和」「戦争をさせない」との主張を貫く社民党の存在意義の証明だ。 選挙期間中、ネットで演説を聞くなどしてボランティアに初めて参加して下さった方々とのつながりづくりが進んだ。社民党には、今回の参院選で獲得した新たなつながりを、選挙後の今こそ発展させ、全国で「琉球弧の軍事要塞化を許さない」と声を上げる運動をつくるため、積極的な旗振り役を担ってほしい。

 

西尾慧吾さん

 

社会新報ご購読のお申し込みはこちら