社会新報

参院選結果どうみる 識者らが語る(上)

(社会新報2022年7月20日号1面より)

 

「女性の怒りの受け皿」の可能性
ジャーナリスト・竹信三恵子

 日本の野党がいまひとつパッとしないのは、女性票、特に若い女性の受け皿になれないことだ。長い間そう思ってきた。今回の選挙運動では、そのような受け皿の核としての社民党の可能性が見えた気がした。

 福島みずほ党首の街頭演説は、選択的夫婦別姓や同性婚の推進、女性の権利を守ること、憲法9条護持を重点的に訴えた点で、他党とは異なる特色を見せた。

 ネット記事でも、「10代20代の女性が集まり、『みずほっちを応援している』『一緒に写真撮ってください』と声をかけられるケースが多く見られた」(7月11日付「ヤフーニュース」)とされ、「♯国会には福島みずほが必要」のツイートは3日連続トレンド入りした。

 実はここ数年、20~30代の女性の社会運動での活躍はめざましいものがある。「保育園落ちた、日本死ね」に代表される保育園不足への怒りや、反セクハラ運動の盛り上がり、コロナ禍での突然の一斉休校で休業を余儀なくされた若い母による「子育て緊急事態宣言」などの動きが相次いでいるからだ。

 私はこれを雑誌『世界』の8月号で、「女性労働運動の静かな活性期」と呼んだ。2021年11月7日付『日本経済新聞』も、前回衆院選の結果をもとに、有権者が女性だけだった場合、自民党は単独過半数を下回っていたと試算している。これを「コロナ禍での女性不況への不満」とする見方もある。だが、それ以上に、「女性活躍」として女性の労働力をあてにしながら「家制度」の尻尾にしがみつく既存政治に、女性たちはほとほと嫌気がさしている。

 政党要件の維持など社民党が見せた踏ん張りは、こうした層の数少ない受け皿としての機能をそれなりに果たしたことにあるのではないか。今後の野党の勝機は、ここにある。

 

竹信三恵子さん

 

敗北の原因は野党共闘の「崩壊」
新潟国際情報大学教授・佐々木寛

 自民圧勝。結果は惨憺たるものだった。日本政治は今後、暗い時代へ向けて漂流するだろう。この自民圧勝の原因を、選挙戦最終盤に起こった安倍元首相殺害事件のみに帰することはできない。3年前、立憲野党は32の1人区の選挙区すべてで候補者の一本化を実現し、10議席を勝ち取った。しかし、自民との一騎打ちに持ち込めたのは11選挙区にとどまり、結果的に4勝28敗と大敗を喫した。

 敗北の主原因は、野党共闘の「崩壊」にある。つまり、今回の結末は、選挙前からある程度予測できた。「市民と野党の共闘」の先進地であった新潟でも、「共闘」は序盤からギクシャクした。連合新潟は、「立憲公認候補」である森ゆうこさんへの、特に共産党による接近を終始けん制し続けた。立憲の県幹部も、共闘を阻害するこのような「要望」をむしろ忖度(そんたく)し、強い姿勢で共闘に臨むことができなかった。結果は、約7万票の差による敗北だったが、これは、安倍元首相の死が無ければ起こりえなかった事実だとは、とうてい言えない。

 社民が1議席を確保したことは、かすかな希望を残したが、批判勢力は分断を余儀なくされ、全国的に守勢だった。ただ、連合のみならず、国民や維新などの多くの組織に見られる「体制翼賛化」の背景を考えると、あるいは国民の意識の変容も指摘できるかもしれない。新自由主義で分断され、身も心も痛めつけられた国民は「寄らば大樹の陰」の権威主義的な心情に陥っているようにも見える。このような「貧すれば鈍する」時代の次にやってくるのは、えてして戦争と暴力の時代である。今後、たとえ政党政治が機能不全に陥ったとしても、どのようにして草の根の力で立憲主義と平和主義を守り抜くのか、今からその方法を考えておかねばならない。

 

佐々木寛さん

 

社会新報ご購読のお申し込みはこちら