社会新報

ドイツ社民党などの「信号連立政権」が誕生-ショルツ新首相が変異株急増対策に全力-

(社会新報2021年12月22日号1面より)

 

12月8日、ドイツ社会民主党(SPD)のオーラフ・ショルツ氏を新首相とする、赤(SPD)黄(自由民主党/FDP)緑(緑の党)の「信号連立政権」が誕生した。しかし、国内は深刻な新型コロナウイルスのデルタ株による第四波の渦中にあり、世界情勢も緊迫し、多難な船出となった。組閣では保健相に疫学者を任命。また、男女雇用均等を重んじ、首相以外の閣僚16人のうち8人は、内相(SPD)、外相(緑の党)、防衛相(SPD)などを含め女性が占める。

 

 

 今夏、新型コロナウイルスのデルタ型変異株が現れると、疫学者・ウイルス学者たちは今年の秋、冬には第4波が来ると注意を喚起し、国内の接種率の低さを嘆いていた。

 ところが、多くの国民や政治家たちは、今年7月5日の新規陽性者数が212人と最低値であったため、ロックダウン(都市封鎖)などの厳しいコロナ規制はもう必要ないと喜んでいた。しかし、その5ヵ月後の今月初め、デルタ型変異株の新規陽性者数が日々7万人を超えた上、さらに感染力が強いとされるオミクロン型の変異株も国内で確認された。

接種促進を超党派で

 メルケル前首相(キリスト教民主同盟/CDU)は、12月2日午後に退任式を行なったが、それに先立つ午前中には、後継者であるショルツ氏(SPD)と共に16州の州首相を急きょ召集。医療体制が崩壊寸前にあること、また来年にはオミクロン株の広がりが予想されることから、危機を乗り越えるには接種率を高め、集団免疫を図るほかないとして、クリスマスまでに3000万人の接種を行なうという超党派決議を全会一致で採択した。

 この決議により、文化やスポーツイベントへの参加や食料品店以外の小売店や飲食店への入店ができるのはワクチン接種者だけとなった。実質的には未接種者に対する全国的ロックダウンである。また、直近一週間の人口10万人当たりの新規陽性者数が350人を超えた場合には、接種者や回復者にも行動制限が課せられる。なお、来年3月中旬には、医療機関や介護施設従事者に接種義務が生じる。接種者のワクチン効果が弱まりつつあることもあり、これを機に追加接種と未接種者の接種が急増。10日現在の接種率は72・5%となった(ロベルト・コッホ研究所による)。

 2日の午後、16年間も政権を担った前メルケル首相は予定通り退任式に臨み、退任演説では、ドイツがコロナ第4波の奔流に呑まれそうな状況下にあること、また過激化しつつある接種拒絶者、コロナ否定論者や軽視者たちを念頭に「科学的知識の否定や陰謀論には弁論し、反接種を扇動するような運動には断固として立ち向かわなければならない」と述べた。

 実際、接種拒否運動に右翼やネオナチ団体が入り込み、誹謗(ひぼう)中傷や脅迫などの過激な行為が増加しており、新政権のフレーザー内相も8日の就任式で「扇動や暴力行為には『寛容ゼロ』の道を歩む」と明言した。

保健相は「希望の星」か

 新政権の閣僚人事での国民の最大の関心事は、保健相に誰がなるかであった。ショルツ首相は、国民の信望が厚い疫学者・医師兼政治家であるカール・ラウターバッハ氏(SPD)を任命し、国民の期待に応えた。

 ラウターバッハ氏はハーバード大学で医学博士号を取得。学者として世界的に有名で、極右政党以外の全ての党から信望も厚い。

 世論や政治動向に振り回されることなくコロナ変異株の危険性を指摘し、科学的事実を述べ続けてきた。このため、ドイツの代表的な大衆紙『ビルト』が「世の終えんの予言者」とやゆしたこともある。コロナ否定論者や接種拒否者にとっては「最大の敵」だ。しかし一般の国民には、パンデミックという難関を乗り越える「希望の星」なのだ。保健相就任に際してラウターバッハ氏は、「パンデミックはわれわれが考えているよりも長引く。ワクチン接種拡大と並行し、社会的に、より公平で強靭(きょうじん)な医療システムをつくり上げたい」と抱負を語った。

 ショルツ新首相も、8日の公共テレビ放送のインタビューで「パンデミックに対応しながらエコ社会福祉へと移行し、気候保全の持続可能な産業社会の曙を目指す」と述べ、「これにはコロナ感染拡大の克服が決定的となる」と強調した。

 共に国民の信望を得た新首相と保健相両者の共通点は、強い意志と実行力にあるようだ。

 なお、ウクライナをめぐる米ロ間の緊張、ベラルーシと欧州連合(EU)加盟国であるポーランドの国境に押し寄せる難民の問題、冬季五輪をめぐる米中間のあつれきなどの外交案件、そして核兵器禁止条約締約国会議のオブザーバー参加を決めたショルツ首相の英断などに関しては、『月刊社会民主』2月号の論考に譲りたい。(ドイツ通信員/リッヒャルト・ペステマー)

 

 

■リッヒャルト・ペステマー 1946年、北ドイツに生まれる。ボン大学で政治学と日本学を専攻。80年から90年まで共同通信ボン支局に勤務。84年から86年までケルン市議(緑の党)。88年から社会新報ドイツ通信員。99年から2019年まで、地方自治体にて政治活動(村議5年、村長兼町議15年)。現在もドイツで町議を務める。

 

 

 
 
社会新報のお申込はこちら