社会新報

自公維合意の茶番劇を批判する~裏金化した政策活動費を温存し、領収書10年後公開という無策~維新の参院での急変はパフォーマンスか

自公維の合意では、「政策活動費」という事実上の「裏金」は温存され、企業献金も存続のまま。パーティー券の公開基準額の上限を引き下げただけ。(写真はPIXTA提供)

 

(社会新報6月20日号1面)

 

 自民党提出の政治資金規正法改正案が6月6日、自民党、公明党、日本維新の会、教育無償化を実現する会の賛成多数で衆院本会議を通過し、参院に送られた。自民党派閥の裏金事件を契機に金権腐敗政治を終わらせるための実効性ある規正法改正が国会の最大の焦点だった。しかし同日通過した改正案は、反省も実効性もない内容だ。
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 立憲民主党ら野党と共に厳しい改正を迫っていた維新が、5月31日に自民党と合意文書を交わし、自民党修正案に賛成した。「身を切る改革」を掲げる維新が、改革とは言えない自民党案に賛成した今回の規正法改正案強行は茶番劇だ。
 5月17日に衆院へ提出された自民党案は、企業・団体献金には手を付けず、政治資金パーティーも継続し、さらには政策活動費は廃止せず、使途を項目別で公開する。罰則については、議員へ政治資金収支報告書の「確認書」交付を義務付け、不記載があり確認不十分の場合、公民権停止につながる罰金刑を科す内容だ。公明党も内容をめぐり共同提出を見送ったほど、乏しい内容である。
 立民は国民民主党らと改正案を共同提出し、「政策活動費の禁止」や「連座制」導入など罰則の強化を図り、立民単独で政治資金パーティー禁止法案と企業団体献金禁止法案を提出。
 維新が提出した改正案は、政治資金パーティーと企業・団体献金を禁止し、「特定支出」制度を新設することを主とする。この制度は、政党が党勢拡大などを目的とした支出で、一定額以内なら「特定支出報告書」を作成し、支出先の情報の記載と領収書を添付する。この報告書の公開は、提出から10年後とする。

ドタバタ自公維合意

 各政党が改正案を提出した上で、22日より衆院政治改革特別委員会で審議入りし、28日から自民党案に対する与野党の修正協議が始まった。修正協議で立民・国民・維新・共産の4党は、①企業・団体献金禁止②政策活動費廃止または領収書の全面公開③議員が会計責任者と同じ責任をとることの明確化  の3点を求めた。自民党は微修正した上で29日に修正案を示したが、野党側は「ゼロ回答」として批判した。5月内での衆院通過を見送るほど、野党側が一致団結して反発していた。
 しかし、31日に事態が大きく動いた。自民党の岸田文雄首相が公明党の山口那津男代表と維新の馬場伸幸代表のそれぞれと会談して修正協議を行なった。
 さらに岸田首相は馬場代表との3項目の「政治資金制度改革に向けた合意事項」に署名した。その内容は、調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開などを義務付ける立法措置を講じること、政策活動費の政党から個人への寄付の特例廃止と10年後の領収書公開、そして自らが代表を務める政治団体への寄付控除を禁止するものだ。馬場代表は「非常に大きな前進だ」と自負を示した。
 しかし、3日に自民党が提出した修正案で、10年後に公開する政策活動費を50万円以上に限ることに維新が反発し、修正のため4日の委員会採決を見送った。再修正した上で、5日の委員会採決を経て6日に衆院本会議を通過した。

金権腐敗を温存する

 改正案はどのような内容となったのか。まず、企業・団体献金と政治資金パーティーは禁止せず、パーティー券購入者の公開基準額を20万円から5万円超に引き下げる。これは公明党の主張を反映したものだが、回数制限が無いため、献金も含め企業からの資金集めが続く。
 罰則強化も「連座制」が導入されず、改正案では問題が起きても議員が責任逃れできる余地がある。政策活動費が温存され、領収書の使途公開を10年後としているが、選挙買収罪などの時効を過ぎてしまう。領収書を黒塗りできる可能性もある。
 以上のように、岸田首相が裏金問題で失われた信頼回復のために「火の玉となって」取り組むと豪語していた結果がこの改正案であるならば、自民党政治で金権腐敗政治を一掃することは不可能である。さらに、改正案へ賛同した公明党と維新も「同じ穴のムジナ」にすぎない。一刻も早い立憲野党による政権交代が必要である。

 ところが、維新が参院審議の段階で態度を急変し、6月18日の常任役員会で、参院で自民党の政治資金規正法改正案に反対することを決めた。首相と馬場代表で合意した調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開に向けた法改正が、今国会で困難になったことが理由という。衆院で自民党案に賛成しておきながら、参院で反対に回るという維新の矛盾した態度に「単なるパフォーマンスに過ぎない」と不信の声が広がっている。

 同月20日、参院本会議で自民党案が自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。維新が離脱し、「政治とカネ」をめぐる茶番劇は大山鳴動の挙げ句、裏金を温存する規正法の微修正で落着した。 

 

(メモ) 【政策活動費】政党から政治家個人に支出される政治資金。自民党の場合、党から幹事長ら党幹部に渡す「つかみ金」。使い道は幹部が選挙応援に入る際に「陣中見舞い」などとして渡されるが、実際に何に使われたかは全く不明だ。二階元幹事長は5年の在任中に約50億円の政策活動費を手にしたが、使途は全額不明で裏金と化している。政治資金規正法は政治家個人への寄付を原則禁止する一方、政党が政治家個人にする寄付は例外的に許容している。同法には受け取った政治家に収支報告の義務規定がない。

自民党総裁と維新の代表が署名した政治資金に関する合意書(一部分)。舌の根も乾かぬうちにほごにされた。