(社会新報2月8日号1面より)
安保関連法の廃止を求め、野党共闘を働きかけてきた市民団体「市民連合」が1月23日、岸田政権の大軍拡政策に抗議する「『わたしたちのあんぽ』を考える緊急市民集会」を都内で開催した。約90人が参加。有識者や平和運動家らが発言、「“外交の力”や“信頼の醸成”を基軸にする、新しい安全保障のあり方を実現しよう」と呼びかけた。
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集会では、猿田佐世さん(新外交イニシアティブ代表)が、防衛費を倍増させ、敵基地攻撃能力を保有する等の岸田政権の安全保障政策に代わる対案を提言した。日本の政界やメディアで「中国の脅威」があおられる中、猿田さんは「日本一国では戦争になる理由がない」と断言。「米中紛争に日本が巻き込まれる恐れのある台湾有事を回避することが必要だ」と述べた。そのためには「戦争の動機をなくす『安心供与』が不可欠だ」として、猿田さんは「米国に対しては、在日米軍出撃の事前協議をてこに、台湾有事に必ずしもYESではないことを伝える」「台湾に対しては、過度な分離独立運動を行なわないことを説得する」「中国に対しては、台湾への安易な武力行使は国際社会の反発を招き、中国を窮地に追い込むことを諭し、他方で台湾の一方的な独立を支持しないことを示し、自制を求める」等を提言した。
猿田さんは、「『抑止』としても『対処』としても、必要な条件を満たさず、戦争拡大の契機となる敵基地攻撃能力を政策として宣言するのは愚策」と指摘し、岸田政権による安全保障政策の大転換を批判。「米中の戦争を望んでないASEAN(東南アジア諸国連合)や韓国と共に、戦争を避けなくてはいけないという国際世論を強固にすることもできるはずだ」と、平和外交の重要性を訴えた。
抑止力神話から脱却
続いて、平和構想提言会議共同座長の川崎哲さんが発言。同会議が昨年12月15日にまとめた政策提言書「戦争ではなく平和の準備を」に沿って発言。川崎さんは「国会でまともな議論もないままに、勝手に安全保障政策を大転換している」と危機感を表明した。
また、岸田政権が敵基地攻撃能力の保有や、防衛費増を「戦争の抑止のためにしている」と主張していることについて「むしろ戦争のリスクを高めている」と指摘した。特に敵基地攻撃能力については、「日本から撃てば反撃を受ける。ミサイルの撃ち合いになる」「相手国からミサイルを撃たれたら、迎撃は難しい。そもそも、政府与党は迎撃が困難だから、敵基地攻撃能力を持とうと主張してきた。市民の被害は避けられない」と懸念を示した。
川崎さんはさらに、戦争を避けるためには、やみくもな日米同盟、防衛力の強化ではなく「考え方の転換が必要だ」と述べ、具体的には「軍事力中心主義と『抑止力神話』からの脱却」「日本国憲法の理念に立ち返る」「日米同盟一辺倒ではなく、アジアの外交と多国間主義の強化」の3つを挙げた。
川崎さんは、「今年は朝鮮戦争の停戦から70年。戦争を完全に終わらせる外交」が必要として、日中関係についても「日本が台湾独立を支持しないと明言するだけでも今の緊張はだいぶ緩和される」「中国の人権や環境などの課題については国連や国際法の枠組みで対応すべきだ」と述べた。また、「沖縄、台湾、中国・福建省との間の『沖縄対話プロジェクト』など、市民社会の対話を深めて武力紛争に発展する可能性を下げることが必要だ」と訴えた。
温暖化防止を最優先
2人の発言を受けて、国際政治学が専門の遠藤誠治・成蹊大学教授がコメント。「軍事力を強化すれば抑止力になるというわけではなく、外交をしなくてはいけない」「今、戦争のために資源を無駄遣いしている余裕は地球にはない。温暖化防止など、共通の利益に取り組むのがリアリズムだ」と述べた。
政治学が専門の中野晃一・上智大学教授もコメントし、岸田政権の軍拡の背景について「日本はGDP(国内総生産)で近くドイツに抜かれる見込み。国を貧しくした人々が、米国の虎の威を借りて『アジアで一番の国』であろうとする構図がある」と指摘。「米国コンプレックスやアジア蔑視をどう乗り越えていくか、市民が議論しなくてはいけない」と訴えた。
防衛産業国有化ノー
集会では、立憲野党の国会議員たちも発言。社民党からは福島みずほ党首がマイクを握り、「今日聞かせていただいた提言と社民党の政策には共通するものがある。一緒に頑張っていきたい」と連帯の言葉を述べた。また「政治が戦争をするのだから、政治で止められる」「財政の軍事化が進んでいる。防衛産業を国有化する法案を止めなくてはいけない」と述べ、中国との緊張緩和にも「超党派の議員で取り組んでいきたい」と語った。
(メモ)
市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)は2015年12月に発足。各国政選挙で立憲野党との間で「政策合意」を形成し、地方1人区や小選挙区での候補者の一本化を後押しし、成果を挙げてきた。新外交イニシアティブ(ND)は、在日米軍基地や日米地位協定、東アジアの安全保障などで発信を続ける民間シンクタンク。平和構想提言会議は昨年10月に研究者やジャーナリスト、NGO関係者らで発足。メンバーは15人。昨年12月15日、政府の安保戦略に対置する平和構想提言を発表した。
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