社会新報

伊藤詩織さんの性暴力被害~最高裁が認め賠償命令確定~

(社会新報2022年8月3日号3面より)

 

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBSワシントン支局長のジャーナリスト・山口敬之氏から性暴力を受けたとして1100万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)が7月7日付で双方の上告を退け、二審判決が確定した。これを受けて、伊藤さんが7月20日、都内で記者会見を開き、5年間の闘いへの思いを語った。

 

 

 この事件が特異なのは、安倍晋三元首相と親しい関係にあった山口氏が、伊藤さんへの準強姦罪容疑で逮捕される直前の2015年6月8日に、当時の中村格・警視庁刑事部長(元菅義偉官房長官秘書官、現・警察庁長官)の指示により逮捕が突如取り消しとなったことである。刑事事件が警察幹部によってもみ消された。伊藤さんは民事訴訟の闘いへとかじを切った。

 2019年12月18日の東京地裁では「合意のないまま行為に及んだ」と認定し、慰謝料など330万円の支払いを山口氏に命じる一方、山口氏が伊藤さんの著書などで名誉を毀損(きそん)されたとして慰謝料など1億3000万円と謝罪広告を求めた反訴が棄却された。

 続く二審の東京高裁判決(今年1月25日)では、一審判決と同様に山口氏に賠償金332万円余りの支払いを命じる一方、山口氏が名誉を毀損されたとした反訴に関し、薬物使用の言及部分のみに真実相当性が認められないとして、55万円の支払いを伊藤さんに命じた。この二審判決を不服として伊藤・山口両氏が上告していたが、最高裁が7月7日、双方の上告を退けた。

今後の刑法改正を注視

 7月20日の会見で伊藤さんは「現在の刑法では、『不同意性交=犯罪ではない』となる問題に目を向け、今後も刑法改正を注視してほしい」と語った。また「5年間闘ってきた裁判が区切りを迎えた。当事者としての声を発信するのはこれを最後にしたい。今後は、これまでの学びを伝えるという仕事で還元していきたいと思う」と述べた。

 伊藤さんは20代後半からの5年間の苦しい闘いについて、「起き上がれない日もあれば、『今日は大丈夫』と思い返す日もあった。そんな日々を繰り返してきた。自分にはとにかく正直になってほしいし、周りは耳を傾けることが必要だと思う。法律が追いついていないことに対して、一緒に目を配ってほしい」と述べた。

 伊藤さんの代理人・西廣陽子弁護士は「伊藤さんの事件が起きた当時と比べると警察は明らかに変わってきたと感じる。#MeToo運動やフラワーデモなど、性暴力被害者自らが声を上げるという運動が広がった。被害を公表することによって性犯罪を取り巻く環境を変えたという意義があった」と指摘した。

 

↑会見する伊藤詩織さん(7月20日)。

 

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