社会新報

【主張】食料・農業・農村基本法改正法案~生産者を大事にしない食料安保などあり得ない

(社会新報3月28日号3面より)

 

 1999年に制定された「農政の憲法」とされる「食料・農業・農村基本法」改正法案が岸田政権により国会に提出された。基本法制定時には、2030年に食料自給率を熱量ベースで45%に引上げることを目標値としたが、現在38%という危機的状況にある。この状況を突破するため、どのように生産者を激励する農政の展開に向けた改正となるのか、注視してきたが、期待は全く裏切られた。
 現行法で「食料の安定供給の確保」としていたものを「食料安全保障の確保」と変えたところは、食料を国民の命を守る安全保障と位置付けた点でまだよい。しかし、それを保障する食料自給率について、現行法では基本計画上の独立した目標であったものを、「食料自給率その他の食料安全保障の確保に関する事項の目標」と格下げしている。
 さらに、生産者にとって、今の危機的経営状態を脱する唯一の方策である「戸別所得補償」については一切触れられていない。せめて、食料価格について、「再生産可能な価格」という表現にすべきであったが、「食品産業の事業者、消費者」などにより、「持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならない」となっている。これは、生産コストの販売価格への転嫁を事業者や消費者にお願いするということだ。生産コスト上昇分を農畜産物価格に転嫁するという無理なことを改正法案で謳っているのだ。
 せっかく食料安全保障の確保を法案でうたったのだから、生産者が生産し続けられ、少しでも後に続く人たちが希望を持てるように、直接支払いで農家を支えなければならないのは自明の理だ。欧州ではまさに食料安保=食料自給率向上のため、ほとんどの国で直接支払い制度が農家を支えている。戸別所得補償制度を復活させるべきだ。財源としては、防衛予算約7・9兆円を大幅削減し、農水予算に回せばよい。農水予算は1970年には防衛予算の約2倍だった。そこに戻すことは十分可能だ。
 昨今の飼料代などの高騰で畜産農家は次々に倒産、それを放置してきた農水省と政府。コメを1俵(60㌔)作るのに、コストは1万5000円だが、売値は1万円だ。5000円もの赤字だ。こんなに赤字を出しても汗を流す若者がこの世にいるだろうか? 農業で食えないから後継者がいないのだ。農水省よ、頼むから生産者を守ってくれ。大事にしてくれ。