社会新報

【主張】袴田事件で再審開始確定~一刻も早く再審を始め無罪判決を勝ち取り尊厳の回復を

(社会新報3月29日号3面より)

 

 袴田巌さんの再審の扉がやっと開くことが確定した。57年前の一家4人殺害事件で死刑が確定していた袴田さんの再審開始を認めた東京高裁決定(13日)について、検察は20日、最高裁への特別抗告を断念した。東京高検は断念を求める世論に押された格好だ。
 本来ならば9年前の2014年に静岡地裁が再審開始を決定し、とっくに無罪判決を得て救済されるべきところを、検察が即時抗告し、高裁が再審開始決定を取り消し、高裁に差し戻した。その差し戻し審に9年もの歳月を費やしてしまったのだ。
 まずは袴田事件を概観しておこう。1966年、静岡県清水市(現・静岡市清水区)で、みそ製造会社の専務宅が全焼。焼け跡から専務一家4人の遺体が見つかった。県警は、住み込み従業員で元プロボクサーの袴田巌さんを強盗殺人容疑で逮捕。袴田さんは「自白」したが初公判で否認し、以降、無実を主張し続けてきた。80年に死刑判決が確定したが、弁護団が2008年に第2次再審請求を申し立てた。静岡地裁は14年、再審開始を認めると同時に死刑と拘置の執行停止を決め、袴田さんを釈放した。東京高裁は18年に再審請求を棄却したが、釈放を維持。最高裁は20年、証拠とされた衣類に付着した血痕の変色について審理不尽があるとして高裁決定を取り消し、審理を差し戻した。そして、差し戻し審で今回の東京高裁再審開始決定に至ったのである。 
 差し戻し審で注目の争点は、犯行時の着衣とされた「5点の衣類」に付着した血痕の色だった。衣類は事件の1年2ヵ月後、袴田さんが勤めていた会社のみそタンクから見つかった。
 確定した死刑判決は犯行直後に隠したと認定。弁護側は、血痕には赤みが残っていたが、実験や鑑定などを基に、みそに長期間漬かっていれば血痕は黒褐色になると主張した。高裁決定は、この弁護側の主張に信用性が認められるとした。
 さらに高裁決定は、捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)した可能性に言及。
 福島みずほ党首は、16日の会見で高裁決定が証拠捏造の可能性を指摘していることについて、「実質的に無罪判決だ」と強調し、「一日も早く再審が開始され、袴田さんの無罪が証明されることを願う」と訴えた。
 袴田さんは87歳、支える姉ひで子さんは90歳とご高齢である。一刻も早く再審で無罪判決を勝ち取り、尊厳の回復を強く望む。

 

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