社会新報

【主張】GXを口実に原発政策大転換~規制委の異例「多数決」でいいのか

(社会新報2月22日号3面より)

 

  政府は2月10日、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。
 これまで「想定しない」としてきた新原発の建設を明記し、福島第1原発事故後に「原則40年・最長60年」としてきた原発の運転期間の延長を認める。安全審査などで停止していた期間分を運転可能な期間として上乗せすることで、60年超の超長期の原発運転を可能とする。
 内容は、昨年7月からはじまった政府のGX実行会議(議長・岸田首相)が年末にとりまとめたGX基本方針とほぼ同じだ。形式的なパブリックコメントと説明・意見交換会が開かれ、多くの批判的な意見が集まったが、何も取り入れられなかった。
 東日本大震災後、あいまいながら「原子力発電への依存度を可能な限り低減する」(エネルギー基本計画など)としてきたこれまでの原発政策は、完全に転換された。原子力規制委員会が運転開始30年超の原発の安全性を10年以内ごとに審査するというが、これで原子炉の安全が確保できるとはとうてい思えない。
 原発のリードタイム(計画から稼働までの期間)が約20年程度であることを踏まえれば、60年を超して稼働する原発は、ほとんど一世紀前に計画された原発となりかねない。そもそも金属は放射線を受けて脆化(ぜいか。もろくなること)することから、原子炉の設計上の耐用年数は40年とされてきた。老朽化した前世紀の遺物に核を委ねることになってよいとは思えない。
 「脱炭素のためにGX推進が必要だ。電力価格高騰対策のためには原子力を活用すべきだ」と言えば仕方がないようにも聞こえるが、本当にそれで良いのか。今すぐ計画した原発でも稼働するのは10~20年後。現在の物価高騰、エネルギー高に対応するものとはまったくならないのである。
 原発の安全を管理する原子力規制委員会は、今回の運転期間延長を可能にするための制度案を13日に決めたが、委員の一人から異論が出され、最終的に多数決で決めることになった。原子力安全のトップ集団の意見が割れたまま、規制制度を決定するのは異例だ。規制委委員のなかで一致できない制度で、原子力の安全が本当に担保できるとは思えない。結論ありきの進め方は福島第1原発事故前と同じではないか。原発事故の教訓を忘れた原発回帰を許すわけにはいかない。

 

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