社会新報

【主張】34年ぶりの超円安相場~アベノミクスからの完全脱却を

(社会新報5月16日号3面より)

 

 昨年来の円安が急激にすすみ、GW中の海外の為替市場で、一時1㌦=160円台に達した。その後、日本当局がドル売り・円買いの介入をしたとみられ、その後は多少、円高方向に戻ったが、不安定な相場が続いている。
 今回の円安の直接のきっかけは、この前週に日銀が金融緩和維持を決定した際、記者会見での植田和男日銀総裁の発言が円安容認と受けとめられたためとされる。その背景には1990年のバブル崩壊以降の「失われた30年」と呼ばれる経済停滞がある。「物価も賃金も上がらない」ことが前提とされ、長期にわたってデフレ経済が続き、これにアベノミクスの「第一の矢」であった「異次元の金融緩和」政策が加わった。極端な低金利によって借金はしやすくなったが、この間、日本経済は世界の成長から取り残された。30年間で円の購買力は半分程度にまで低くなった。
 日銀は、3月19日の金融政策決定会合で、「マイナス金利」政策などの解除を決めたが、いぜん日本の政策金利は0・1%程度で、4・5~5・5%程度のドルやユーロなど主要通貨と比べて極端に低いままだ。国債を大量に買う「金融緩和」政策自体もやめたわけではない。デフレからも脱却できず、ほとんど金利がない日本の通貨が積極的に買われるはずはない。円安も当然である。
 円安は、輸出産業やインバウンド(訪日)観光客など外貨を持つ者にとってはプラスに働き、自動車メーカーなどの輸出企業は商品の価格が上がり、大きな利益を得られる。2022年の資本金10億円以上の大企業がためこんだ内部留保(利益剰余金)は、2022年で555兆円に達した。一方で、円で暮らす人にとっては燃料や食料など輸入物資の価格が跳ね上がり、生活が圧迫される。
 今の異常な円安と物価高の最大の責任は、金融政策に過度に依存したアベノミクスの弊害だ。即効性のある対策は金利差の縮小だが、異次元緩和と円安の誘導を10年以上漫然と続けてきた結果、日本の財政当局の為替をコントロールする力をかつてなく弱まっているようだ。
 いま必要なのは、異常な円安や物価高騰のなかで苦しむ市民の生活の実体を直接支援する政策だ。中小企業への賃上げの支援、最低賃金の引き上げ、年金の引き上げなど、生活の現場を温める政策実現に全力を挙げたい。