6月6~9日、欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会の選挙が行なわれた。EUに加盟する27ヵ国ごとに実施され、多くの国で移民排斥を掲げる極右やEU統合に懐疑的な右派勢力が躍進した。
1993年に12ヵ国で発足したEUは、95年に15ヵ国となり、99年からは通貨も統合された(英国、デンマーク、スウェーデンは不参加)。2004年にはバルト3国など中・東欧8ヵ国を含む計10ヵ国が同時に加盟し、13年には28ヵ国にまで拡大。第2次世界大戦後に東西に分断された欧州が、民主主義と自由という共通の価値観と原則で統合した歴史的な転換点となった。主権国家が集まり、その主権の一部を委譲して国家の共同体をつくるという、壮大な実験でもある。
このEUが逆風にさらされている。加盟国間の格差や、移民流入などの問題が顕在化し、EUへの懐疑論が高まった。英国は国民投票の結果、20年にEUを離脱している。
今回の選挙では欧州議会(定数720)のうち、EUに懐疑的な極右・右派が過去最多の議席を占めた。欧州人民党(中道右派/186議席)や欧州社会民主進歩同盟(社民主義/135議席)、欧州刷新(自由主義/79議席)の親EU3会派が過半数を維持したが、右派の伸長によって欧州が重視してきた多様性や人権の尊重といった価値観が後退し、環境規制や再生可能エネルギーの拡大、リベラルな移民政策などが修正を迫られることが懸念されている(議席数は暫定)。
フランスのマクロン大統領は、所属する欧州刷新が議席を減らし、自国の極右政党(国民連合)の得票率が4割近くに達したことを受け、仏国民議会(下院)の解散を決めた。あらためて国民に信を問い主導権を取り戻す意図とされるが、むしろ右派を勢いづかせることになる可能性もあり、注意深く見守る必要がある。
ロシアのウクライナ侵略、台湾海峡の緊張、パレスチナでのジェノサイド、世界的な物価高騰や気候危機などのなかで、各国が内向きになり、いっそうの右傾化がすすむことが懸念される。11月の米大統領選挙でトランプ氏復活の可能性もあり、欧州だけでなく世界全体が自国優先主義、国家主義に流れるリスクは高い。日本も今国会で外国人の永住許可剥奪を容易にする入管法改正が強行された。寛容な精神が弱まり、排外的な志向が強まっているのは、ひとごとではない。