(社会新報10月10日号3面より)
9月27日に行なわれた自民党総裁選挙で、大方の予想を覆して石破茂氏が当選。10月1日の臨時国会冒頭で石破氏が第102代総理大臣に就任し、石破新内閣が発足した。
石破氏は首相就任の前日に衆院選投開票の日程を明言し、国会軽視との批判を浴びた。自民党総裁選のさ中には、解散の前に国会審議で有権者が投票する際の判断材料を示すとしてきたが、約束はほごにされた。そもそも解散は内閣不信任が表明されるなど政府と国会の意思が異なった場合に限るべきだとして、首相の恣意で自由に解散する「(憲法)7条解散」に否定的な考えを示してきたことからも、石破首相の姿勢は筋が通らない。結局、臨時国会会期を9日までとする与党の提案は野党から総反発を受け、会期を採決で決める異例の事態となった。
石破内閣には、①政権の姿勢を目に見える形で国民に示すような審議を行なう②能登半島豪雨対策の補正予算を成立させる③裏金問題の説明責任を果たし政治資金規正法改正の道筋をつける④旧優生保護法による被害者への謝罪・賠償法を成立させる――ことなどが求められていたが、10月9日までの会期では、とうてい不可能だ。自民党への積み重なる不信を覆い隠し、ごまかすための無理な解散と断ぜざるをえない。
石破氏が、安倍政権から疎んじられてきた経緯から「安倍政治」からの明確な転換を期待する声もあるが、自民党には危機にさらされた際に「党の顔」を変える「疑似政権交代」の見せかけによって延命をはかってきた過去があり、慎重に見極める必要がある。
そもそも石破首相は「軍事オタク」とも称される防衛族であり、新内閣や党4役人事で防衛大臣経験者を重用していることから、安倍政権、岸田政権以上の防衛力偏重路線を加速させるおそれも払拭(ふっしょく)できない。また女性閣僚は2人しかおらず、ジェンダー平等への配慮もまったく見えない。
今回の解散が、能登半島の被害を置き去りにして、物価高に苦しむ市民の生活困窮への対策より自民党の「裏金」批判をうやむやにするために行なう党利党略解散であることは明らかだろう。働く人たちや市民のための政治を実現するためには、自民党のトップの顔の張り替えによる疑似政権交代ではなく、自民党に代わる政党連合による真の政権交代が必要だ。