社会新報

【主張】韓国権力者の暴走~ 「緊急事態条項」改憲案の阻止を

 (社会新報12月19日号3面より)

 

 12月3日夜、韓国の尹錫悦大統領は「政治の停滞」を理由に「非常戒厳」を宣言し、国民の自由を封殺しようとした。しかし、権力の暴走に怒った与野党の国会議員が国会に続々と集まり、4日未明に「非常戒厳」は解除された。市民もこの動きに呼応して国会を包囲した。たび重なる弾圧にも屈せず築かれてきた韓国の民主主義の力を見せつけた。  7日の尹大統領への弾劾訴訟案は成立しなかったが、尹氏の弾劾を求める声は広がりを見せており、真相究明や責任追及の動きは強まるに違いない。

 今回の事態を受けた市民生活や国際関係への悪影響が心配されているが、ここでは、韓国の「非常戒厳」と日本の改憲派が制定を主張している「緊急事態条項」について検討したい。  韓国憲法では、非常戒厳が宣言されると言論や出版、集会、結社の自由などを制限できる。今回の宣布直後に戒厳司令官が出した布告令は、集会やデモを含む一切の政治活動を禁じ、メディアも統制を受けるとされていた。  自民党憲法改悪の「たたき台草案」(2018年)は「大規模災害や感染症まん延等の有事においても…国会が機能できない事態の対処として内閣の緊急政令を規定します」としている。  内閣が緊急事態を宣言すれば内閣が独自に法律を作成することができ、国民は公的機関からの指示に従わなければならないことになる。

 日本国憲法には緊急事態に関わる規定はない。世界的に見ても珍しいといわれる。改憲派はそのことも制定の根拠に挙げる。  だが日本も、かつて緊急事態条項と法的には同じような性質を持つ規定があった。関東大震災(1923年)の際に発令された「行政戒厳」だ。軍隊はこれを根拠に朝鮮人や中国人を大量に虐殺した。日本国憲法に緊急事態条項がないのも個人の生命や尊厳がじゅうりんされてきた歴史の反省からにほかならない。  ところが一部の改憲派からは、今回の韓国の事態を受けて、またぞろ緊急事態条項を加える改憲を求める声が出ているという。

 社民党の服部良一幹事長は5日付の談話で「今回の韓国の事態を見ると、時の権力者の誤った判断がいかに危険な事態を招くか、まざまざと見せつけられたのではないか」と指摘した。韓国の動向にこの面からも注目するとともに、連帯した運動を広げていきたい。