社会新報

「SOGIハラ」で労災認定~会社の上司が社員の性自認を侮辱

会見するSOGIハラで労災認定を得た当該組合員(手前)、小野山静弁護士(中央)、プレカリアートユニオンの稲葉一良書記長(右)=11月10日、厚労省記者クラブ。

 

(社会新報12月7日号3面)

 

 プレカリアートユニオンの組合員で、神奈川県内のインフラ関連企業で働くトランスジェンダー女性が、SOGIハラ(性的指向・性自認に関わるハラスメント)を原因とする精神疾患について、今年6月30日、労災認定を勝ち取った。
 労災認定されたトランス女性は、SOGIハラによりうつ病を発症し、2年半超の休職を余儀なくされたが、プレカリアートユニオンに加入、交渉し、就労環境を整備させた上で、復職を実現、労災申請をしていた。代理人を旬報法律事務所の佐々木亮弁護士、小野山静弁護士が務めた。
 当該組合員は、生まれたときに割り当てられた性は男性だったが、性自認は女性であるトランス女性だ。女性として社会生活を送ることを決意し、新卒で入社した会社で、2010年ごろから髪を伸ばし始めた。すると当時の上司から、業務中に笑いながら「髪長いね」「髪切らないの?」などとやゆされた上、理不尽な配置転換が行なわれた。
 トランスジェンダーであることを嫌悪し、異質な者として排除する会社の対応により、当該組合員は、16年に適応障害の診断を受けるに至った。

人格を否定する言動

 その後、18年当時に勤務していた事業所で、直属の上司から執拗(しつよう)なハラスメントが行なわれるようになった。自身の性自認について説明して理解を求め、「『彼』と呼ぶのはやめてほしい」と明確に伝えたにもかかわらず、この上司は「彼」と執拗に呼び続けた。さらにこの上司は、「君のことを女として見ることなんかできない。法律上もそうだ。女として扱ってほしいなら、さっさと手術でもなんでも受ければいいだろう」、「君にやってもらうことはないよ」など、性自認を否定するだけでなく、業務から外すことまでも通告してきた。
 問題の上司と別の上司も立ち会って話し合いが行なわれたが、その場でも執拗に「彼」と呼び続け、戸籍上の性別変更に立ち入り、「女性としての心遣いをしたらどうか」と責め立てるなど、当該組合員の性自認を侮辱し、人格を否定する言動を繰り返した。出席予定の打ち合わせから排除されることもあった。この上司は、他の女性従業員のことは「さん」付けで呼んでいるにもかかわらず、当該組合員のことだけを「君」付けで呼び、性自認を否定する発言を繰り返した。
 この上司から性自認を侮辱する発言等を執拗に受けるようになり、当該組合員は、不眠、不安感、緊張感、焦燥感を覚え、出社することができなくなり、18年12月以降、休職を余儀なくされた。
 復職にあたっては、転居を伴う遠方への異動を示唆されていたが、休職期間の満了が迫る21年5月、プレカリアートユニオンに加入。繰り返し交渉を行ない、一定のSOGIハラ対策を含む就労環境の整備を行ない、加害者との適正な距離の確保なども約束させ、金銭的な補償も得た上で、同年9月、転居の必要がない従来の事業所へ復職した。
 復職に向けた協議と並行してSOGIハラによる精神疾患について労災申請を進めていたところ、業務上と認定され、11月10日、厚生労働省の記者クラブで記者会見を行なった。
 業務上と判断した具体的な出来事として、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が認められ、その心理的負荷の強度は「強」とされた。
 会見で小野山静弁護士は、「長時間労働を伴わない、ハラスメントのみを具体的な出来事とする労災認定は極めてまれ」だとして、長時間労働がない中での労災認定の意義を強調。

決め手は録音の証拠

 当該組合員は会見で、労働組合の交渉により無事に復職できたことを報告。本件労災認定に関する報道を受けて、バッシングをする意見も寄せられる中、加害者が「女性として扱ってほしければ細やかな心遣いが必要だ」と発言したことについて、SNS上で、この上司はトランス女性以外の女性に対してもハラスメントをするのだろうと、被害者に共感する意見が上がったことに、変化を感じる旨の感想を述べた。また、労災認定の決め手は録音の証拠があったことだとして、職場でSOGIハラを含むハラスメントを受けた際に、録音を残す重要性を訴えた。
 会見の翌々日の11月12日には、新宿区内で2回目となる東京トランスマーチが開催され、トランスジェンダーの人権・プライドを訴えるパレードがあり、約1000人が参加した。SOGIハラ労災認定のニュースはトランスマーチ会場でも話題になり、参加者を勇気づけた。(プレカリアートユニオン執行委員長・清水直子)