社会新報

ドイツ社民党が第1党に躍進-気候保全を訴えるショルツ氏に共感-

(社会新報2021年10月13日号1面より)
 

中道右派の統一会派であるキリスト教民主同盟(CDU)/キリスト教社会同盟(CSU)と、中道左派のドイツ社会民主党(SPD)による大連立政党は、16年にわたってメルケル首相(CDU)の下、政権を担ってきた。しかし、9月26日投開票のドイツ連邦議会選挙では、SPDが得票率25・7%(前回比5・2%増)、CDU・CSUが得票率24・1%(前回比8・9%減)という僅差で第1党に躍進。同日実施されたメッケンブルグ=フォアポンメルン州とベルリン州の州選挙でも、SPDは最強の政党として勝利した。

大連立政権の副党首兼財相であるショルツ氏は、メルケル首相が続投しないことを明言した際も、冷静さを保って泰然自若としていた。首相立候補者に関する最初の世論調査では、ショルツ氏はCDUのラシェット氏と緑の党のベアボック氏に全く及ばない最下位にあった。しかし総選挙後の9月28日には、次期首相としての適任度を問う世論調査で、ショルツ氏(SPD)64%、ラシェット氏(CDU)26%、ベアボック氏(緑の党)25%という順位に変わっている(出所:Statista)。

この逆転劇の裏には、ラシェット氏にコロナ対策用のマスク購入に関わる汚職スキャンダルが浮上し、また洪水被災地を訪問した際に笑うなどの失態があったこと、緑の党のベアボック氏には履歴に虚偽があったり、『今日におけるドイツ改革法』という自身の著書に盗作の箇所があることを指摘されことがある。

脱炭素政策に説得力

これに対してショルツ氏は、ドイツが内政・外交面ともに乱気流のまっただ中にあるにもかかわらず、一貫して感情を露にしない北ドイツ人特有の落ち着きぶりを見せ、SPDの基盤支持層以外の有権者からも信頼を得た。同時に、これまで党内派閥間抗争で党が四分五裂状態であったのを、「新しい政権交代のために党が一丸となる」ことを実現させ、指導力を見せた。

政策的には、コロナ禍により受けた経済困難から生じた社会問題を緩和するために、メルケル政権の財務相として支援金給付のため特別経済援助策を速やかに講じ、選挙戦では最低賃金を時給12ユーロに引き上げるという公約を掲げた。さらに、「再生可能エネルギーの大々的拡大やEV導入や公共交通手段の充実により、2015年に気候保全のためのパリ協定で定めた地球気温上昇率を1・5度以下に抑える」と発言。

ショルツ氏が掲げる社会正義や気候保全、化石燃料基盤産業の脱炭素化によるカーボンニュートラルの達成といった政策は、有権者に対して説得力があった。

一方、緑の党は選挙戦では気候変動だけにテーマを絞った。人間がもたらした気候変動の影響は、ドイツでも前代未聞の洪水や竜巻などの自然災害によって現実的なものとなっている。若い活動家たちによるフライデー・フォー・フューチャー(未来のための金曜日)運動が、ドイツはもとより世界的規模で広がっていることもあり、緑の党はテーマ設定の適切さに自負を持っていた。

ところが、徹底した気候保全を求めて総選挙投票日の2日前にドイツ各地で行なわれたデモ行進(60万人が参加)では、「気候保全は政党間の協議で交渉する類いのものではない」という声が上がった。

CDUは最悪の敗北

さらに、グローバル規模で広がっている気候保全運動の表看板ともいえる、世界的に知名度のあるグレタ・トゥーンベリが、「すべての政党が地球温暖化を1・5度に抑えなければならない。未来のための運動は決して緑の党のロビイスト的存在などではない」と述べ、注目を浴びた。

緑の党やSPDに対し、CDUとFDP(自由民主党)は減税による経済の活性化を掲げ、地球温暖化を1・5度以下に抑えるには時速制限・交通手段・権利・所有物をめぐる「禁止」や「放棄」ではなく、技術革新が必要だと主張。

結局、CDUは戦後最悪の敗北。このため、3候補者の中では有権者の信頼度が最も高いSPDのショルツ氏が新首相の最有力候補になった。だが、ドイツでは連邦議会での過半数の議席が確保されて初めて政権樹立という運びになる。

SPDは緑の党(得票率14・8%、前回比5・8%増)とFDP(得票率11・5%、前回比0・7%増)との連立によらなければ過半数の条件を満たすことができない。だが、かなりの議席を失ったCDU/CSUも、ラシェット氏を次期首相として緑の党とFDPと連立する可能性を探っている。さらに、SPD主導でCDU/CSUとの大政党連立政権の継続というシナリオも、全くなきにしもあらずだ。こうして今、多数派工作の動きが活発化している。今回の連立協議では、大政党ではなく小政党である緑の党とFDPが実質的に実権を握ることとなった。これに対し、極右政党のドイツのための選択肢(10・3%、前回比2・3%減)と左派党(4・9%、前回比4・3%減)は連立協議の対象外となっている。(ドイツ通信員・リッヒャルト・ぺステマー)

 

 

リッヒャルト・ペステマー

1946年、北ドイツに生まれる。ボン大学にて政治学と日本学を専攻。80年から90年まで共同通信ボン支局に勤務。84年から86年までケルン市議(緑の党)。88年から長年、社会新報ドイツ通信員。99年から2019年まで、地方自治体にて政治活動(村議5年、村長兼町議15年)。現在もドイツで町議を務めている。

 
社会新報のお申込はこちら