(社会新報3月15日号1面より)
ジャーナリスト・高野孟さんの講演「『台湾有事切迫』論の嘘に惑わされるな!」が2月16日、衆院第一議員会館で行なわれ、約100人が参加した。立憲フォーラムと「戦争をさせない1000人委員会」の共催。
「有事切迫」論の怪
高野さんは、日本でも喧伝(けんでん)されるようになった「台湾有事切迫」論(メモ)について、「中国に関して無知であり、予算欲しさに危機感をあおり立てているだけ」と批判した。
高野さんは、「台湾有事切迫」論の火付け役となった米インド太平洋軍のフィリップ=デービットソン司令官(当時)が退官後の今年1月に来日し、自民党の外交部会・国防部会などの合同会議で講演し、その前後にもさまざまなメディアのインタビューに応じ、以前と同様の見解を語っていることを指摘。
特に今年1月26日付『日本経済新聞』(朝刊)にデービットソン氏の見解として掲載された次のような記述を取り上げた。
「(デービットソン氏は)中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が3期目の任期満了を迎える2027年までに、中国が台湾に侵攻する可能性があるとの見方を示した」
「『決して武力行使の放棄を約束しない』とした習氏の発言からも、台湾統一への野心を強めていることが分かると指摘。台湾侵攻の可能性が現実味を帯び始めているとの懸念を示した」
高野氏はこの記事で取り上げられたデービットソン氏の見解について「あまりにも幼稚」と切り捨てた上で、次のように語った。
「中国や台湾の兵士だけでなく、何万人・何十万人と市民が死ぬかもしれない戦争を仕掛け、しかも米国や日本が介入するのが分かっていながら、『戦争をやらないと4選できない』との判断が、どこから出てくるのか。中国の内戦は正式には終結していない。仮に『台湾が独立を宣言する』ということになれば、武力をもってでも阻止するというのは、中国の国是のようなもの。習近平はその基本姿勢を述べているだけだ」
中国の変わらぬ姿勢
またロシアのウクライナ侵略開始以降、日本のマスコミの一部から「プーチンがウクライナに武力侵攻したのだから、習近平も台湾をやるだろう」といった類いの話が流れ始めたことについても言及。
「なぜ紛争が起きて、どれが内戦で、どこからが侵略なのかという、初歩的な理解を欠いた言説だ。毎日のようにそうした情報がシャワーのように降り注ぎ、人々は洗脳されて『そうなのかな。共産党政権はやはり怖いよな』という話になっていく」と懸念を表した。
危機を煽る日本の輩
高野さんは、米国ではデービッドソン氏の「お騒がせ言説」に対し批判の声が上がり始めているが、日本ではまだ「乗り乗り」の状態だと指摘した。
デービットソン発言が報道されてすぐ、安倍晋三前首相と麻生太郎副総理(いずれも当時)は「台湾有事は日本有事」との認識を確認し、たちまち政府・自民党の基調となったと高野さんは指摘する。これが現在の防衛費倍増路線につながったということだ。
また、ウクライナ危機を台湾危機に重ね合わせて危機感をあおり、「台湾有事は直ちに日本有事」などと騒ぎ立てているのが、自民党の佐藤正久氏(前外交部会長・参院議員)だという。あの「ヒゲの隊長」だ。
高野さんは、佐藤氏がその著書『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』(幻冬舎新書・2022年8月)の中で、「もし、私が習近平国家主席だったら、台湾を獲りに行く時に、同盟国の北朝鮮に動いてもらう」とともに、ロシアにも極東方面やウクライナの正面で動いてもらうことによって、「台湾への守りを薄くしておいて、スーッと獲ってしまう」と書いていることを指摘した。
その上で、「それは世界大戦ということ。中国の内政問題なのに、中国がどうしてそんなことをできるのか。こうした妄想に従って、今の防衛費大増額路線が進行している」と痛烈に批判。「仮に中国が台湾に侵攻したとしても、それはあくまでも『中国の内戦』だ。もし日本が介入すれば、現在のプーチンと同じ過ちを犯すことになる」と警鐘を鳴らした。
高野さんは最後に、次のように訴えた。
「『台湾有事は日本有事。だから防衛費倍増』という、うその連鎖を断ち切っていくことが必要だ。岸田首相は安倍元首相(故人)の背後霊に抱き付かれて、この路線から逃れられないでいる。だから、『台湾有事切迫』論を打ち破り、今の軍拡路線を打ち砕いていかなければならない」
(メモ)【「台湾有事切迫」論】米インド太平洋軍のフィリップ=デービットソン司令官は退官直前の一昨年3月、米上院軍事委員会の公聴会で、中国による台湾軍事侵攻について「この10年以内、実際には今後6年のうちにその脅威が現実のものとなると思う」などと述べた。
この発言の波紋は日米を中心に広がり、大きな反響を呼んだ。特に日本での「台湾有事危機」論を後押し、「台湾有事は日本有事に直結する」といった危機意識を高めた。
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