社会新報

【主張】五輪強行の愚-命とくらしに向き合えない菅政権-

(社会新報2021年7月21日号3面《主張》より)

「腐敗がひどくなると、純然たる実務を実務として回せなくなるのですね」。政治学者の白井聡さん(京都精華大学教授)のSNS上のつぶやきに目がとまり、思わず納得した。菅政権の行き当たりばったりのコロナ対策に、日々、政治家と官僚の劣化を実感させられる。

7月12日、東京都に4度目の緊急事態宣言が発出された。前回の解除からたったの3週間、期間は8月22日まで。夏休みやお盆休みで地方への行き来が活発になるこの時期、感染拡大を抑え込むためと言うが、7月23日に迫った五輪を何がなんでも開催するためには、もうこれくらいしか持ち駒がないのだろう。世界から約8万人の五輪関係者を受け入れながら、人々には行動抑制を要請するという整合性なき政府の方針に、多くの人々があきれ返っている。感染拡大を抑え込むために協力しようという気持ちを削ぐだけだ。ブレーキをかけながらアクセルを踏むとは、まさにこのこと。

7月8日、西村経済再生担当相は、内閣官房と国税庁が、緊急事態宣言中、酒類の提供自粛に応じない飲食店との取引禁止を卸売り業者などの関係団体に文書で依頼していることを明らかにした。また酒類の提供を行なう飲食店の情報を取引先の金融機関と共有し、金融機関からも飲食店に働きかけを行なうよう関連省庁と調整しているとも発言し、大きな反発を呼び、13日に撤回した。感染拡大を抑え込めず、その度に飲食店は時短営業や休業に追い込まれ、酒類の販売も禁止されて集客も収益も上がらず、協力金の支給も遅延。息絶え絶えに持ちこたえようと踏ん張っている飲食店を感染拡大の元凶のように悪者にし、つるし上げて脅す前に、この間の政府の行き当たりばったりの政策を猛省するのが先だ。現状を冷静に判断する力を完全に失い、緊急事態宣言下、五輪を強行する政府のありさまに、かつての大戦を重ね合わせる人は多いだろう。

東日本大震災、福島第1原発事故が起きた2011年から2年後、五輪の東京招致が決まった。原発事故を収束することもできず、多くの人が避難生活を強いられ、帰る故郷を失っている時に、あきらかに税金を使う優先順位が違う。その時から一貫して、この国の政治は人々の命とくらしに向き合っていない。いま政治がやるべきことは、徹底して人々の命とくらしを守ること。それ以外にない。

 

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