「虎に翼」のメインビジュアル。(C)NHK
(社会新報7月4日号1面)
NHKで放送中の朝の連続ドラマ「虎に翼」がいま話題だ。女性として日本で初めて弁護士・裁判官となった人物がモデルの主人公「寅子(ともこ)」が、「はて?」と首をかしげ、「これはスンッだ」と謎の言葉をつぶやきながら、不条理や差別に挑む姿が共感を呼んでいる。識者によるコメントも多い。東京大学文学部教授で歴史家の加藤陽子さん、弁護士で共同テーブル発起人の杉浦ひとみさん、福島みずほ社民党党首の発言を紹介する(文責・編集部)。
「優三さんは憲法か!」
加藤陽子さん
「虎に翼」のワンシーンで主人公・寅子の夫の優三さんが、河川敷でこう寅子に語りかけた。「君ができるのは君の好きに生きることです。好きな仕事をしてもいいし、子どもの面倒をみてもいいんだ。だから君が後悔せず心から人生をやりきってくれること、これが僕の望みです」。まるで「優三さんは憲法か!」という話です。
実は、これが憲法14条の超訳になっている。人間は誰も差別しない、されない、平等である。仕事を持ってもいい、好きに生きていい、自分の人生を終えるときに「ああ面白かった」と思える。ここなんです。憲法14条「すべて国民は法の下に平等であって人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的・経済的又は社会的関係において差別されない」。ここはすごく大事です。皆さんは、この14条をテレビの朝ドラを通じてインデックスとして頭に入れたわけです。優三さんを演じた仲野太賀さんの声で。(6月1日「第36回憲法フェスティバル」の講演より)
弁護士の間でも話題に
杉浦ひとみさん
いま弁護士の世界でも「虎に翼」が話題ですが、あのドラマから、皆さんはどんなことを受け止められていますか。主人公の夫の優三さん、良い人じゃないですか。あの世代、あの時代に「寅ちゃんの好きなように生きて。君が輝いているのが一番いい」って、あんなことを言える男性は稀有(けう)だし、今だって、そんなにいないかもしれない。
だけど、最後は悲しみをこらえるようにして別れましたね。あのとき、優三さんのところに何が来ましたか。配達する人が「おめでとうございます」と言って赤紙を渡し、家族は「ありがとうございます」と受け取りました。そして「万歳!」の声に送られての出征です。
戦争にノーと言えない国、天皇に命を捧げることが素晴らしいとされる国だったのです。本当は泣く泣くですが、表向きは「ありがたい」と言いながら戦争に駆り出されて傷つき、亡くなっていきました。
私たちがただ平和が大切とか9条守れとか言っても、なかなか浸透しません。「あんないい男を赤紙一枚で持っていかれていいの?」と。「虎に翼だね」と言いながら、戦争を止める声と力を広げていきましょう。(6月9日「社民党キックオフ集会」での発言より)
法律は人を幸せにするためにある
福島みずほ党首
朝のドラマ「虎に翼」、「そうだ、そうだ、憲法が大事だ」と共感しながら喜んで見ています。先日は、こういうセリフがありました。「法律は人を縛って死なせるためにあるのではなく、人を幸せにするためにあるのだ」と。まさに、そのとおりではないですか。
政治は人を幸せにするためにある。でも、今の自民党政治、小池都政、全然そうなっていない。神宮外苑、日比谷公園、築地の再開発、共通しているものは都庁から14人も天下りしている三井不動産です。神宮外苑でも日比谷公園でも樹木をバッサバッサと切り倒す。
公園は三井不動産や小池百合子さんの私物ではない。大切な公共財です。「稼げる公園づくり」といいながら、どんどん規制緩和をし、カネもうけの場所として企業に差し出す。こんな政治をぶっ飛ばし、人を幸せにする都政を、今こそつくっていこう。(6月17日「都政を変えよう!! キックオフ集会板橋」での発言より)
(メモ)
【NHK連続テレビ小説「虎に翼」】2024年4月1日スタート。9月27日まで130話。吉田恵里香作、寅子役は伊藤沙莉(さいり)。タイトルの由来は、寅子が1914年「五黄の寅」に生まれたことと、中国・春秋戦国時代(紀元前8世紀~3世紀)末期の思想家・韓非の言葉によるとされる。寅子のモデル三淵嘉子(みぶち・よしこ 1914年~84年)は、日本で女性として初めて弁護士、判事に就任した。