(社会新報12月12日号1面より)
来年1月に発足する第2次トランプ政権はいったいどこへ向かうのか。自国第一主義を掲げ、国際協調を崩し、国民間の分断を深化させる懸念がある。トランプ氏が大統領選で若年層支持を拡大した背景やトランプ政治の危うさについて、米国研究者の芳賀和弥さんに寄稿していただいた。
若年層に支持を拡げたトランプ氏
米国大統領選挙は、トランプ氏の「圧勝」で幕を閉じた。得票総数を見ると、トランプ氏7713万票(得票率49・9%)、ハリス氏7470万票(得票率48・3%)。
注目すべきは、2016年から3回連続選挙を戦うトランプ氏が、得票数を伸ばし続けていることである。16年は6298万票、20年は7422万票。
その岩盤支持層は白人中高年労働者と言われてきた。そのままでは年を経るにつれて薄くなるはずの岩盤だが、その後、若年層にも広がっている。出口調査の結果を見ると、18~24歳の層でトランプ氏は健闘した。前回はこの年代で31%の得票だったが、今回は42%を占めている。
下のグラフは、米国における所得下位50%と上位1%の税引前所得の占有割合の推移である。第2次世界大戦前までは上位1%が上にあるが、戦後は逆転した。そして1970年代半ばには幅が大きく開く。この期間は格差の「大圧縮時代」とも呼ばれる。
そこから一転して上位1%が上に伸び、96年には再逆転する。90年代までG7と呼ばれていた先進資本主義国は、どの国もほぼ同様の軌跡を描くが、再び逆転するのは米国だけだ。突出して「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」国になったのである。
さて、トランプ氏のMAGA(アメリカを再び偉大に)に共鳴する岩盤支持層が思い浮かべるのは、80年代以前の大圧縮時代のことだ。ハリス氏の民主党は、80年代以降のグラフが逆転していく時代に生まれ育ったミレニアル世代(81年以降生まれ)や、逆転しきった時代を生きるZ世代(96年以降生まれ)の得票で大きくリードするはずだったが、ここを掘り崩された。この間のインフレによる生活苦が最大の原因とされているが、「絶望死」に象徴される白人中高年層に際立つ虚無感、いら立ちが、若者にも浸透し始めたと見ることもできる。
大統領に加え上下両院も共和党が勝利
大統領に加え、上下両院も共和党が制し、「トリプル・レッド」となった。上院の議席は60には達せず、民主党によるフィリバスターという議事妨害戦術は避けられないが、トランプ氏は「米国第一主義」に基づく政策をほぼフリーハンドで推進することができる。連邦最高裁の判事構成も強固にこれを支える。
環境規制に反対する環境保護局長官…
次期政権の陣容が固まってきているが、「気候変動など存在しない」と言ってきた人たちが環境保護局長官やエネルギー長官になる見込みだ。「掘って、掘って、掘りまくれ」と規制緩和を連呼する姿勢そのままの人事である。減税、高関税推進論者と共に、いずれ経済の難しい調整局面を迎えることになる。また、側近のように振る舞うイーロン・マスク氏は、労働組合運動を側面から支える政府機関である全国労働関係局(NLRB)を「違憲だ」と提訴するような人物である。
率先して国民間の分断を深化させる権力であるから、大きな反発を招く。ほどなく一部の大資本に支えられた強権的・暴力的支配が行なわれることになるだろう。また、「自国第一主義」の姿勢は対外協調を崩し、国内に巻き起こる波風を突いて海外から思いもよらない一撃を引き起こすことにもなる。全く予断を許さない情勢となった。
(芳賀和弥)