社会新報

自民派閥の裏金 全容解明を~特捜部、通常国会開会までに立件の判断へ

 

(社会新報1月11日号1面より)

 

 自民党の派閥マネーに捜査のメスが入った。同党派閥の政治資金をめぐる問題で、東京地検特捜部は、昨年までの5年間で安倍派が約5億円、二階派が1億円を超えるパーティー収入を政治資金収支報告書に記載しなかった疑いがあるとして安倍派と二階派の派閥事務所を政治資金規正法違反容疑で家宅捜索。異例の検事50人体制で捜査を進めており、2024年1月下旬予定の通常国会開会までに起訴、不起訴を判断する。
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 特捜部は岸田派を含む自民党の5派閥について捜査し、金額が1億円を超えた安倍派と二階派について悪質性が高いとして強制捜査を実施した。安倍派と二階派は所属議員に派閥のパーティー券の販売ノルマを課し、ノルマを超えた資金を集めた所属国会議員に超過分をキックバックしたとされる。
 二階派はノルマ超過分を派閥の収支報告書に記載せず、議員へのキックバック分については記載し、安倍派は派閥、議員側ともキックバック分の収入と支出を収支報告書に記載せず裏金にしていた疑いがある。
 この事件とは別に、特捜部は、自民党の柿沢未途衆院議員が、東京・江東区長選挙をめぐり、支援していた木村弥生前江東区長の選挙前に、江東区議らに現金を配り買収した容疑で、柿沢議員を23年12月28日に逮捕した。
 自民党の腐敗体質が一気に噴き出した格好だ。

細田氏が不記載指示か

  安倍派関係者によると、政治資金パーティーによる裏金作りについて「故・細田博之氏が派閥の会長だった当時(2014年12月から21年11月)、細田氏は“記載しなくていい”と周囲に指示していた」という。
 「安倍派に強い影響力を持つ森喜朗元首相は、刑事事件化は不可避と判断したのか、昨年11月ごろ、マンションを売って奥さんと一緒に都内の高級有料老人ホームに転居し、友人には“外部と連絡が取れなくなる”と通知したそうだ。故・安倍前首相については安倍氏に近い元NHKの岩田明子氏が、裏金作りは21年11月の安倍氏の派閥会長就任以前から続いていた悪習で、22年2月に安倍氏はそれを知り“ただちに直せ”と発言したと夕刊紙に書いた」(安倍派関係者)

派閥事務総長を追及へ

   安倍派の会計責任者である同派事務局長はNTT出身で、元同社社員の世耕弘成参院幹事長が連れて来た。
 「派閥の口座を特捜部は押さえており、派閥の金の出入りをすべてつかんでいる。それで事務局長も、もはや隠しようがないと観念し、特捜部の取り調べに正直に事実を話し、キックバックに関する帳簿も特捜部に提出済みだ。事務局長は派閥の政治資金の会計責任者なので起訴は免れないだろうが、問題は派閥の実務を取り仕切る派閥事務総長の関与だ。現在の派閥事務総長の高木毅・前党国対委員長や、最近まで官房長官を務めてきた松野博一氏は、検察から厳しく追及されるのは必至だ」(別の安倍派関係者)
 だが事務総長経験者の国会議員を起訴するには、議員が会計責任者に裏金作りを指示したことを示す証言に加え、メールやメモなどの物証が必要だ。ハードルは高いが、起訴されて有罪が確定すると議員は失職し、原則5年間は公民権停止になり選挙に立候補できない。
 収支報告書の不実記載が摘発された最近の事例としては、自民党の薗浦健太郎前衆院議員が収支報告書にパーティー券収入など約4600万円の過小記載に関与したとして議員辞職している(100万円の罰金と公民権停止3年)。

知る権利を守るために

    今回の捜査の発端は神戸学院大学法学部の上脇博之教授の刑事告発だった。
 上脇さんは02年3月に市民団体ネットワーク「政治資金オンブズマン」を阪口徳雄弁護士と設立。「政治資金報告書にうそを書くことは有権者への裏切りであり、国民の知る権利の侵害である」との立場から「数えたことはないが、恐らく100件以上の政治資金規正法違反の告発状を書いてきたのではないか」と話す。
「告発するためには総務省所管分と各議員の地元の都道府県所管分の政治資金収支報告書の数年分を突き合わせて詳細に調べねばならず、ものすごく骨が折れる大変な作業です。時々心が折れそうになりますが、国民の知る権利を守るために必要なことだとの思いから、コツコツと調査を積み重ねてきました」(上脇さん)
 メディアの報道がきっかけで特定の政治家の収支報告書を調べることも多く、その意味では報道記者と連携して不正を暴いてきたと言える。今回も、22年11月6日の「しんぶん赤旗日曜版」が「岸田派など主要5派閥がパー券収入2500万円を不記載」と報道したのを受けて、あらためて5派閥の収支報告書などを読み込んだ結果、日曜版の報道を上回る約4000万円の不記載を見つけ、22年11月から23年1月にかけて派閥ごとに刑事告発。その後も調査と告発を続け、23年12月時点で計6100万円を超える不記載を告発したという。

組織的裏金作りまん延

   政治資金規正法は、20万円を超える政治資金パーティー券の購入については購入者の名前、金額、購入日などを収支報告書に記載することを義務付けている。
 「ところが、調べると主要な5つの派閥すべてにパーティーの20万円を超える部分についての明細の不記載が毎年、大量にあった。20万円を超える金額を見落とすなんてあり得ないので、これは単純なミスでない、きっと組織的な裏金作りが党内にまん延しているのだろうと思った。だが告発時点では裏金の証拠がなかったので、告発状の最後に“裏金を作っている可能性があるのでそこまで捜査してほしい”と希望を書いた。つまり確実に受理される20万円の不記載を告発の入り口にして特捜部に裏金捜査を依頼したということです」
 安倍派などが裏金作りを改めなかった背景について上脇さんは、「派閥のパーティー券販売に伴うお金の流れは全国の政治団体を網羅的に調べないと分からない。派閥側と個々の議員は『そんな面倒な調査をやる人間はいない。もしキックバックが見つかってもせいぜい1つか2つだろうから単純なミスとして訂正すれば済む』とたかをくくっていたはず」と推測する。
 上脇さんは、政治資金の不正対策として「企業献金と政治資金パーティーの廃止、完全な比例代表制の導入、政党助成金の廃止といった制度改革に加え、有権者自身が自分の選挙区の国会議員の政治資金をチェックすることの重要性に気づくことが大事」と話す。
 党全国連合は12月20日の常任幹事会で福島党首を座長とする「政治改革プロジェクトチーム」(仮)の設置を決めた。