(社会新報2022年8月17日号3面【主張】より)
21万にも及ぶ大阪府民の声は、いとも簡単に退けられた。7月29日、大阪府議会は、大阪府と大阪市によるカジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の是非を問う住民投票条例案を即日否決した。2ヵ月間という限られた期間で集められた署名は、総数21万134筆(有効数19万2773筆)。直接請求に必要な約14万6000筆をはるかに上回る署名は、府民が連日街頭に立ち、人々との対話によって積み重ねた一筆一筆だ。
昨年末、カジノの誘致先である大阪湾の人工島・夢洲の土地改良に公金が投入されることが公表されてから世論は変わった。「カジノの是非は府民が決めたい」と、住民投票実現に向けた運動が本格化。吉村知事は、この署名活動を「カジノ反対派の運動」と捉えている節があるが、実際に署名した人はさまざまだ。カジノ反対の人もいれば賛成の人もいる。日頃は大阪維新の会や公明党の支持者だが、カジノには反対という人もいる。とにかく、「大事なことだから府民の声を聞いてくれ」。それがこの署名に込められた府民の思いだ。
しかし、本来であれば詳しく審議するために設けられる委員会も省略、少数会派には発言機会すら与えない。市民の意見陳述は30分に限定され、半日ほどの本会議で即日否決された。
「大阪府及び大阪市はIR整備法に基づき、必要な手続きを実施してきた。選挙で選ばれた議会での議論を経て、議決されている。あらためて住民投票を実施することには意義を見出し難い」。これが吉村知事の意見だ。選挙で勝てば何をやっても構わないのか。思い出してほしい。吉村知事が代表を務める大阪維新の会は、政令市・大阪市の廃止を問う住民投票を2度にわたって仕掛けた(どちらも否決)。松井一郎大阪市長(日本維新の会代表)は住民投票を「究極の民主主義」と繰り返し強調した。その言葉に責任を持つなら、受け入れるべきである。維新政治の詭弁(きべん)が際立つ。採決後、傍聴席から抗議の声を上げる府民に、「はよ出ていけや!」と言って笑い合っている維新議員たちの姿をテレビカメラはしっかりと捉えていた。本会議前、府庁周辺でのリレートークで、子ども時代、パチンコ依存症の母親によるネグレクトを体験した女性は、絞り出すような声で「私のように虐待される子どもを増やしたくない」と涙ながらに訴えた。そんな府民の姿が彼らには見えていない。
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