(社会新報4月26日号1面より)
名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)で亡くなったウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の遺族と弁護団は6日、厚生労働省内で会見を行ない、入管収容時のウィシュマさんの様子を収めた監視カメラ映像の一部を公開。入管難民法(出入国及び難民認定法)改悪への反対を表明した。
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スリランカから留学生として来日したウィシュマさんは、交際していた男性からDV(ドメスティック・バイオレンス、配偶者暴力)を受け、2020年8月、交番に被害を訴えたが、学籍を失っていたことから名古屋入管に収容された。その後、ウィシュマさんは体重が激減し、嘔吐(おうと)・吐血をくり返すなど、健康状態が悪化したが、名古屋入管は適切な治療を受けさせず、ウィシュマさんは2021年3月に亡くなった。
今回、公開された映像は、ウィシュマさん死亡の国賠訴訟で国が提出した約5時間分から、約5分を抜き出したもの。弁護団の指宿昭一弁護士は会見で、「ウィシュマさんのご遺族は、監視カメラの映像を、日本の多くの市民に見てもらいたいと訴えていた」と述べ、「入管難民法改悪法案が国会に提出され、ウィシュマさんの映像を誰も見ないまま、改悪法案が審議されることは、到底許されない」と語った。
「病院に連れて行って」
高橋済弁護士も、「(入管法で)人が人を収容する中で何があったのか知るべきだ」と述べ、映像公開に踏み切ったのだという。
会見で公開された映像は、2021年2月22日から同年3月6日、ウィシュマさんが亡くなった日までのもので、ベッドに横たわるウィシュマさんの様子が、カメラが設置されている天井から撮影されている。映像の中で、ウィシュマさんは、何度も「飲めない」「食べられない」と飲食が難しいことを訴えていた。2月23日の晩の時点でウィシュマさんは「私は今日夜死ぬ」と生命の危機を感じていた。「病院に連れて行って」「息ができない」と訴えて、「アネー(母語のシンハラ語で命乞いを意味する言葉)、お願い」「長い間食べてない」と懇願したが、名古屋入管側は病院に連れていかなかった。3月5日昼の映像では、すでにウィシュマさんは自力では動けなくなっており、うめき声を上げるだけだった。看護師は、ウィシュマさんの体勢を変える介助をしながら、「痛くても仕方ないよ、自分で動けないから」と話している。3月6日14時07分の映像で職員がウィシュマさんに何度も声かけするが反応はなく、同日15時25分、搬送先の病院で死亡が確認された。
295時間分が未提出
弁護団によると、国が提出した映像は一部にすぎず、295時間分の映像が提出されていない。遺族らが確認した「鼻から牛乳」「薬きまっている?」等の入管職員らの問題発言の部分も提出されていない。駒井知絵弁護士は「私たちは日本社会で何が起きているのか正確に知る義務がある」と語り、遺族・弁護団は全ての映像の公開を求めていく方針だという。
会見には、ウィシュマさんの妹のワヨミさんとポールニマさんが出席。ワヨミさんは、「姉がどのように苦しみ、救いのない環境で見殺しにされたかを、日本の皆さんに知ってもらいたい」「入管難民法改悪案に反対。どうか、日本人の皆さま、姉の死を無駄にしないでほしい」と涙ながらに語った。
ポールニマさんも、入管難民法改悪案に、国連等から勧告された「収容の是非を裁判所に判断させること」が盛り込まれてなかった点を指摘。「このような制度では、姉は救えなかった」「二度と同じようなことが起きないよう、制度を変えるために、皆さんにも(政府に)圧力をかけてほしい」と訴えた。
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