(社会新報6月14日号2面より)
入管法改悪案をめぐり、また重大な問題が明らかとなった。法案の立法事実となった柳瀬房子・難民審査参与員が「1年半で500件の対面での審査を行なった」と受け取れる発言をしていることに対し、齋藤健法相も「不可能」と認めたのである。社民党の福島みずほ党首は、1日の参院法務委員会でこの問題を追及した。
入管法改悪案の立法事実とされるのが、柳瀬参与員による2021年4月21日の衆院法務委員会での発言だ。「2000件の対面審査を行なって難民と認められたのは6人」「難民はほとんどいない」との発言が、3回目以降の難民認定申請をした人々を強制送還するという入管法改悪案の骨格部分の根拠とされたのだ。この柳瀬発言の信ぴょう性が崩れたきっかけが、5月30日午前の法相の記者会見での、Dialogue for People(D4P)の佐藤慧記者の質問だ。19年11月11日、法務省会合「収容・送還に関する専門部会」で、柳瀬氏が「1500件の対面審査を行なった」と発言したことを指摘。「1年半で500件審査したことになるが、それは可能なのか」と質問した。齋藤法相は「一般的に言って可能である」と回答した。これを受け、会見後の同日昼、ジャーナリストの志葉玲さんが、全国難民弁護団連絡会議が行なった難民審査参与員へのアンケートで平均的な対面審査に要する時間が「約6時間」と回答されていることや、柳瀬氏の21年度の出勤日が33日であることから、「1年半で500件の審査を行なうことは不可能」とする記事をYahoo!ニュースで配信。この記事を齋藤法相も読んだらしく、同日の夜に、「『不可能』だと言うはずのところ、『可能』と言い間違えた」とのメールを会見に参加した記者たちに送ったのだった。
柳瀬氏の19年と21年の発言の整合性が破綻していること、それを齋藤法相が認めたことで、野党側は「立法事実が崩壊した」と追及。1日の参院法務委員会で、「可能」を「不可能」と訂正したことについて、福島党首は「どういうことなのか」と法相を追及。法相は「いろんな数字がその場で質問で出てきたということもあり、言い間違えてしまった」と弁明したが、福島党首は「法相の会見での発言の文脈から言い間違えとは考えられない。本当に可能だと思っていたのではないか」と問いただした。
法相はあくまでも「言い間違い」との釈明を繰り返し、柳瀬発言の信ぴょう性については、はぐらかした。福島党首は「ひどい答弁だ。この法案を認めることはできない」と断じた。