(社会新報11月16日号より)
「沖縄は何度来ても気持ちがいいね」。その人は、こんなふうに話し始めた。2014年11月、那覇市の野球場。澄んだ秋空がどこまでも高かった▼その人は「政治の役割は二つある」と言った。一つは国民を飢えさせず安心な食べ物を供給すること。そして「これが最も大事」と力を込めたのが「絶対に戦争をしないこと」だった▼発言主は俳優の菅原文太さん。米軍普天間基地の辺野古移設をめぐり当時の知事が容認に転じた後の沖縄県知事選。絶対阻止を掲げる翁長雄志さんの総決起集会に、文太さんは応援に駆けつけた▼圧巻は演説終盤。代表作『仁義なき戦い』の名ぜりふもそのままに、県民を裏切った前知事に切っ先を突きつけた。「仲井眞さん、弾はまだ1発残っとるがよ」。沸き返る会場、大歓声と指笛が耳に残る▼文太さんは応援演説から1ヵ月もたたず急逝した。いま振り返れば重い病を押しての11分間は、渾身の「遺言」だったように思えてくる▼あの秋の日から9年、沖縄ではいよいよ不条理がまかり通る。岸田政権は辺野古軟弱地盤の埋め立て強行へ代執行に突き進み、南西諸島の軍拡も加速する▼23日は県民大集会。今一度、心に抵抗の銃弾を込めたい。このまま平和を脅かす暴政を黙って見送れば、泉下の名優に合わせる顔がない。(萬)