社会新報

【鈴木エイトさんが本紙に寄稿】山上被告、一審無期懲役 ~ 控訴審で立証を尽くせるか

統一教会(現・世界平和家庭連合)本部の看板(東京都渋谷区松濤)。

安倍元首相が統一教会の関連団体UPFの集会に韓鶴子総裁を礼賛するビデオメッセージを寄せた。このメッセージが山上被告に絶望感を与え、犯行に向かわせるトリガーとなった。(2021年、PacelinkTVより)

 

 

安倍晋三元首相を銃撃・殺害した罪に問われている山上徹也被告は、一審で無期懲役を言い渡され、弁護側は控訴。統一教会問題を追及し続ける鈴木エイトさんが控訴審の行方について本紙に特別寄稿した。

昨年10月28日から奈良地裁で始まった山上徹也被告人(45)の量刑を決める公判は12月18日に結審し、検察官は無期懲役を求刑。年が明けた今年1月21日、奈良地方裁判所の田中伸一裁判長は求刑どおりの無期懲役判決を下した。
長くとも懲役20年が相当と主張していた弁護団は控訴期限の2月4日、控訴申立書を奈良地裁へ提出した。控訴は検察官、弁護人、被告人からそれぞれできるが、今回は被告人と相談の上で、弁護人が控訴した形だ。判決翌週から弁護団の弁護士4人がそれぞれ大阪拘置所で山上徹也氏と接見を重ね、時間をかけて検討、被告人も上訴権を放棄せず控訴の意思を固めた。
検察の主張を全面的に認めた一審判決、奈良地裁の量刑判断においては発射罪の認定が大きなウエートを占めている。だが、私はなぜ情状減軽によって有期刑とならなかったのかという点に注目した。
前提として、有期刑の場合、併合罪が認められると殺人罪単独での最長有期刑である懲役20年の1・5倍の懲役30年までの判決が想定された。

弁護側は情状面を主張

情状面の認定においても検察官と弁護人の主張は真逆だった。検察官は「被告人の生い立ちは量刑判断に直接影響しない一般情状事実にすぎない」とした一方、弁護側は「生い立ちは量刑判断において最も重要視されるべき犯行動機に深く関わる情状事実」であり「家庭崩壊に至る未成年からの悲惨な経験が本件犯行と一直線に強く結びついている」とし、さらに「同じ社会に生きる同じ人間として、被告人をどれぐらい責められるか、非難できるか」と問いかけ、「一定期間の服役を経た上での社会復帰の可能性を与えるべき」と最小限の有期刑にとどめるべきだとしていた。
だが奈良地裁は、被告人の家庭が〈統一教会への母親の入信を契機とした高額献金によって徹底的に破壊された〉という思春期以降の生育歴を「遠因」にすぎないとして、まったく斟酌(しんしゃく)せず、教団の悪質性の認定すらしなかった。私が最も重視されるべきだと認識していた動機面でも「教団への激しい怒りの感情」が殺人へと至る意思決定の過程自体に「大きな飛躍がある」とした。検察は教団への復讐が安倍氏に向けられたことに「飛躍がある」と論告で主張していた。判決と論告、ともに動機と犯行の間に「飛躍」があると指摘したことになる。

政界工作示すTM報告

また、刑事事件の限界であるのだが、審理にあたって、安倍氏と教団の関係性については、犯行時における被告人の認識までしか要求されない。被告人の認識を越えた客観的事実は刑事裁判においては基本的に取り扱われない。そのため、判決文では一切、言及がなかった。だが、刑事裁判では民事事件の裁判とは違い、真実の究明が求められる。被告人が認識していた安倍氏と教団の関係性が、一方的な思い込みなどではなく、客観的に担保できるものなのか、最低限の審理はなされてしかるべきだ。事実、審理が集結したあとに、両者の関係性を裏付ける教団の内部資料『TM特別報告』の内容が明らかとなった。
そこに記されていたのは、全世界で教団とそのフロント機関が展開する政界工作の実態であり、私が長年にわたる調査で報じた内容を裏付けるものだ。
弁護側も一審の公判において、被告人の認識する安倍氏と教団の関係性を統一教会の被害救済に携わる証人として採用された全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の弁護士の証言を得て、立証に務めた。
だが、両者の関係性を追及し、公判をほぼすべて傍聴してきた私には、裁判員や裁判官が動機面の「飛躍」を埋めるレベルでの立証が尽くされたとは思えなかった。結果としてその立証が足りなかったことによって情状減軽とならず、無期懲役という判決になったと感じている。
全国弁連の弁護士の証人尋問の際、補充質問で裁判員のひとりが「2世の方が安倍元首相のビデオメッセージに衝撃を受け、絶望したと言っていましたが、その感覚が分からないのです。政治家の来賓あいさつと何が違うのですか」と尋ねていた場面が印象的だった。

山上被告と2度の面会

この感覚の差が一審では最後まで埋め切れず、結局のところ〝理解可能性〟のレベルまでの立証がなされなかったと感じている。
私は判決公判前に2回、山上徹也氏と拘置所内で面会した。判決前に彼が会ったメディア関係者は私のみだった。そこであらためて彼と私の間に共通理解があったことが確認できた。言い換えると、彼と私の理解には、検察や奈良地裁の裁判体が指摘するような「飛躍」はなかったということである。
高裁での審理は裁判員裁判ではなく、3人の裁判官の合議制での評議・評決となる。
私は判決後の面会で、山上徹也氏に「控訴するべき」と告げた。「宗教カルトという社会問題の被害者が重大事件を起こすに至ったかについて後世に伝え、同様の事件を防ぐ存在になってほしい」と伝えたのだ。そのためには、高裁で有期刑の判決を得ることが必須となる。
高裁で情状減軽を得るためには、動機面での新たな立証が必要となる。まだ、明かすことはできないが、次に出版する単行本のなかで誰も気付いていなかった新事実を提示するつもりだ。その内容は、高裁での審理に大きな影響を与えるものとなるだろう。(ジャーナリスト・鈴木エイト) <3月5日号より>