(社会新報2022年4月20日号3面【主張】より)
4月7日、岸田政権が重要法案に位置付ける経済安全保障推進法案が衆院を通過した。参院での審議が続くが、今国会での成立がほぼ確実である。
高度な先端技術の海外流出を防ぎ、経済や生活に欠かせない物資を確実に確保することが狙いだ。米国と中国との先端技術をめぐる覇権争いや、コロナ禍で各国が医薬品の「囲い込み」に走った経緯を踏まえ、政府が経済や国民生活に欠かせない重要物資を指定し、これらを扱う企業の活動を監視し、物資の安定供給を図ったり、技術の流出を防ぐとのことである。
具体的には、①国が指定した半導体や医薬品などの「特定重要物資」の調達に関わる企業の監視②サイバー攻撃などを防ぐために電力、鉄道、情報通信などの「基幹インフラ」を事前審査③先端技術に関わる官民協力で知り得た秘密を漏らすことへの罰則導入④原子力や軍事技術を流出させないために特許の国内での特許出願を義務づけ情報を非公開とすること などが規定される。
米国の対中政策と連動し、中国封じ込めの一翼を担おうという意図は露骨だ。国家が経済活動と深く関わる中国の経済制度に対抗するために、政府が民間企業の活動を管理し、関与を強めようとする。
社民党は、政府の企業への介入が自由な経済活動を萎縮させる懸念や、政官業の癒着、科学技術の軍事化がすすみ研究活動を制約するおそれなどを指摘し、批判してきた。法案の運用の詳細が、国会審議を経ない「政令」「省令」で決まることも大きな問題だ。
「安全保障」を狭い軍事の範囲だけで考えず、総合的、包括的に考えること自体は重要な視点だ。しかし今回の「経済安全保障」は、国家安全保障の柱として、国家安全保障局(NSS)が外交・防衛政策と並びで司るもので、企業や市民の活動への介入を強化するものだ。むしろ従前の狭い安全保障観を強化する方向と言えるのではないか。
食の安全や食料の安定確保のため食料自給率の向上などを目指す「食料安全保障」や、人間一人ひとりの生存・生活・尊厳を保護し、持続可能な社会づくりを促す「人間の安全保障」の考え方などを取り入れた、より広範で総合的な安全保障政策こそが必要だ。
衆院では野党の懸念に配慮した付帯決議が採択されたが、必ずしも十分とはいえない。参院での審議を慎重に見守りたい。
社会新報ご購読のお申し込みはこちら