(社会新報2021年9月1日号3面《主張》より)
米軍のアフガニスタンからの撤退が進む中で、イスラム主義勢力タリバンがほぼ全土を制圧した。アシェラフ・ガニ大統領は国外に脱出し、米国が主導して支えてきた政権は崩壊した。タリバンの恐怖政治の再来を怖れる市民や、国外に脱出しようとする在留外国人で、首都は混乱を極めているという。
米国の中枢を襲った2001年の9・11同時多発テロから20年にして、米国史上最長の「戦争」は完全に破綻した。この間、2500人近くの米兵が命を落とし、英、カナダ、独などNATO(北大西洋条約機構)加盟国を合わせると約3600人が犠牲となった。タリバンなど武装勢力の死者は5万人を超え、アフガン政府軍・警察・民間人の死者も、約11万6000人に及ぶという。すでに米国が費やした戦費は2兆㌦。今後も死傷者の収容や利子負担などで膨大な支出が必要となる。これらの犠牲やこれまでの努力はタリバン政権の復活で水泡に帰したと言わざるを得ない。20年間に費やされた膨大な資金や人的犠牲はいったい何のためだったのか。米国の責任は重い。
9・11テロの後、悲しみと怒りに燃えた米国は、「テロとの戦争」にひた走った。国際社会も、テロ組織「アルカイダ」をかくまうタリバン政権を倒し、「失敗国家」と称されたアフガンを再建しよういう米国の主張をおおむね受け入れた(安保理決議1368は全会一致、「不朽の自由作戦」には75ヵ国が協力、自衛隊も海上阻止行動に参加)。米国の攻撃でタリバン政権はほどなく崩壊したが、多民族国家の統治は安定しなかった。米国がいかに政府軍強化に取り組んでも、汚職がまん延し、民主政治が定着することはなかった。
社民党は当初から、①いかなるテロも絶対に認めない②米国等による「軍事報復」には反対③テロは戦争では止められない、警察力によって厳正に処罰するべきと主張し、自衛隊の派遣に強く反対してきた。今もこの認識は変わらないし、混乱に乗じた自衛隊派遣にも賛成できない。
タリバン政権下でのアフガン人の安全や自由、女子教育や人権など、懸念は多く、米国や国際社会の責任は重い。今後、一致してタリバンに自制を求め、アフガンの再建にしっかりと責任を果たしていくべきだ。軍事力偏重の行動がもたらした悲劇をかみしめ、教訓とすることしか、犠牲者に報いるすべはない。